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TSMC熊本に次ぐ2番目の半導体工場建設は日本政府の補助金次第

台湾TSMCのCEOである魏哲家(C.C. Wei)氏(図1)は、2023年1月に開催された2022年第4四半期の決算説明会の最後に、同社の顧客の信頼を高め、同社が成⻑するための「世界的製造フットプリント拡⼤計画」を発表した。

TSMC 魏哲家(C.C. Wei) CEO

図1 TSMCのCEOである魏哲家(C.C. Wei)氏


魏哲家氏は、まず同社の基本姿勢について、「TSMC の使命は、今後何年にもわたって、世界のロジック IC 業界にとって信頼できる技術と生産能力のプロバイダになることである。私たちの仕事は、顧客の成功を可能にする最適なソリューションを提供すること。これには、技術的リーダーシップ、製造、コスト、信頼が含まれるが、最近では地理的な製造の柔軟性も含まれる。当社は、顧客の要求に基づいて、最適なソリューションを顧客に提供し続けるために、台湾以外の能力を増強している。 TSMC の決定は、顧客のニーズと各国政府のサポートに基づいている。私たちの決定には、このほかに、TSMC の長期的な成長のための人材プール、土地、電力、水のニーズも考慮している」と述べた。

魏哲家氏は、地勢学も考慮した新たな海外進出方針をこのように示した後、具体的にまず米国への進出に関して、「アリゾナ州に 2 つの高度な半導体工場を建設中である。第1ファブは、2024 年に 4nm プロセス技術の生産を開始する予定である。また、2026 年には 3nmプロセス技術の生産を開始する予定の第2ファブの建設も発表した。TSMC アリゾナは、米国で商業的に利用可能な最先端の半導体技術を提供し続ける」と述べた。TSMCは、米CHIPS法に基づく多額の政府補助金を期待しているが、まだ支給されていない。


政府の補助金次第で熊本に次ぐ2番目の工場建設検討中

次に、魏哲家氏は、日本への進出について触れて「台湾以外で成熟したノードの生産能力の構築も検討している。日本では、28/22nm、さらには16/12nm技術を利用する特殊技術ファブを熊本に建設している。量産は 2024 年後半に開始する予定になっている」と述べた。
さらに、同氏は、「顧客からの需要と政府の支援レベルが理にかなっていれば、日本に2番目の工場を建設することも検討している」と述べた。まるで日本政府への露骨なカネの催促しているように見える。なお、日本の第2工場に関して、建設場所や工期や生産品目などの言及はなかった。

これを受けて、西村経済産業相は「TSMCの日本第2工場を大いに歓迎したい。どういった支援が可能か考えていきたい」と話し、補助金支給に前向きな姿勢を示した。日本政府は熊本工場建設に4760億円の助成金を支給したが、おそらく今回それをはるかに上回る補助金支給は確実だろう。もともと経産省は、2019年頃からTSMCやインテルの先端半導体工場の誘致を行ってきた。紆余曲折を経てTSMCのつくばの3DIC研究センターや先端プロセスからは程遠い成熟特殊プロセスの熊本工場を誘致したが、それで満足することなく、初心貫徹でTSMCやインテル先端半導体工場の誘致をあきらめてはいないようだ(参考資料1)。


ユーロッパに車載半導体工場、台湾には2nm最先端工場

魏哲家氏は、次にヨーロッパ展開について触れて、「顧客からの需要と政府の支援レベルに基づいて、自動車固有の技術に焦点を当てた特殊な製品を製造する工場を建設する可能性を評価している」と述べた。

中国では、地元の顧客をサポートするために計画どおり南京で 28 nmを拡張している。同時に、台湾への投資も継続するとし、N3(いわゆる3nmプロセスノード)は、台南サイエンスパークで量産に入った。また、新竹と台中でN2 の大量生産の工場建設も進めているが、開発は順調で、予想以上の性能が確認されており、リスク生産は2024年、大量生産は2025年を予定していると明言した。


RapidusはTSMCと共存できるのか?

そのような中、国策半導体メーカーであるRapidusは、米IBMの半導体技術を導入し、特許のライセンスを受けて2nmプロセスでの生産を2020年代後半(2027年頃)に始める計画のようである。しかし、IBMは、研究施設で2nmテストチップの試作を発表したというだけで、量産技術は持っておらず、果たしてRapidusが量産に成功するか危ぶまれている。IBMのかつてのパートナーだったGlobalFoundriesの微細化量産競争からの脱落や現パートナーのSamsungのGAAプロセス立ち上げ時の苦戦が気になるところである。

Rapidusは、開発・試作にとどめ、着実な微細化ではるかに先行するTSMC(第2工場?)に製造委託するのではないかとの見方が早くも出ていると一部メディアは伝えている(参考資料2)。

SEMICON ジャパンでの証券アナリストパネル討論で、UBS証券 調査本部長の安井健二氏は「Rapidusの成功はとても厳しいだろう。場合によっては数兆円規模の損失が出る状況に経営者は耐えられるか」(参考資料3)と述べていたが、耐えられなければ、TSMCがRapidusを吸収合併するのではないかとの噂までささやかれ始めているようだ(参考資料2)。

参考資料
1. 服部毅、「最先端半導体の国産化 経産省に三つの策」、週刊エコノミストonline (2022/11/18)、および週刊エコノミスト2022年11月29日号pp.40-41.
2. 「深層真相:TSMCが『日本第2工場』計画を表明 巨額補助金を“催促”か」、週刊エコノミスト2023年2月7日号p.15
3. 服部毅、「2023年の半導体装置市場はマイナス成長に SEMICON Japan 2022でアナリストたちが予測」、マイナビニュースTECH+ (2022/12/20)

国際技術ジャーナリスト 服部毅

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