セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

次世代半導体(2nm超)日米共同開発はいずこへ?

今年5月の岸田首相・バイデン米大統領の日米首脳共同声明で、次世代半導体の日米共同開発に向けたタスクフォース(作業部会)を設立することで合意した。そして、その詳細を詰める日米経済政策協議委員会(経済版2+2)閣僚級会議が去る7月29日(米国時間)にワシントンD.C.で開催された(図1)。会議の後、萩生田大臣(当時)はレモンド長官と個別テーマに関して会談したようである。

図1 7月29日の「経済版2+2」会議に出席した閣僚の記念写真:左から萩生田経産大臣、林外務大臣、ブリンケン国務長官、レモンド商務長官 出典:経済産業省

図1 7月29日の「経済版2+2」会議に出席した閣僚の記念写真:左から萩生田経産大臣、林外務大臣、ブリンケン国務長官、レモンド商務長官 出典:経済産業省


同日、日米で同時発表された「日米経済政策協議委員会共同声明」には「半導体」の文字は無く、付帯に文書である「日米経済政策協議委員会 2022 年行動計画」には、わずかに最後の16項目目に「岸田総理とバイデン大統領が発表した次世代半導体の開発を模索する合同タスクォースの進展を歓迎し、このメカニズムを通じた継続的な協力にコミットする」とだけ、あっさりと記されている。

しかし、7月30日(日本時間)、土曜日にもかかわらず、経済産業省は、上記の共同声明とともに「経済産業省は、日米間で5月に合意した半導体協力基本原則に基づいた日米間での共同研究の実施を見据え、次世代半導体研究における国内外の英知を結集するための新しい研究開発組織を立ち上げることを決定しました」と文書で発表した。
そして、関係機関として
国立研究開発法人物質・材料研究機構
国立研究開発法人理化学研究所
国立研究開発法人産業技術総合研究所
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立大学法人東北大学
国立大学法人筑波大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人東京工業大学
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
を具体的に挙げて、今後、文部科学省をはじめとする関係省庁や産業界等の関係者と議論しながら詳細を検討していくとしている。それ以上の詳細な情報は発表されてはいない。

萩生田経済産業相(当時)は、ワシントンでの記者会見で「次世代半導体の日米共同開発を加速する。日本は研究開発組織と言明した」という。日本経済新聞だけは、ワシントンD.C.発で、「日本は年末までに新たな研究機関『次世代半導体製造技術開発センター(仮称)』を立ち上げて、米国の国立半導体技術センター(NSTC)の設備や人材を活用し、2025年にも日本国内で量産態勢を整える」とやたら具体的に伝えるが、真偽のほどは不明である。

2025年と言えば、熊本のTSMCファブが2024年末に稼働を始めた数ヵ月後というわけで、どう考えても次世代半導体(2nmあるいはBeyond 2nmと言われている)の量産が可能になるはずもない。台湾半導体業界は「まるで空想に近い」とみている。

そんな中、8月10日の内閣改造でも続投に意欲を燃やしていた萩生田光一経産大臣がかつてコロナ対策に詳しい西村康稔氏に交代した。岸田首相が「内閣の骨格は維持する」方針を示していたが、萩生田氏は会見で「俺は骨格じゃなかったのかとの思いがある」と漏らしたほど、経産大臣を継続したかった気持ちがにじみ出ている。5月連休には、渡米してIBM研究開発センターでEUV露光装置を視察して、同社トップとも技術業力の約束を取り付け、レモンド商務長官とも何度も会談を持って、日米半導体共同開発に向けた準備を着々と進めてきただけに、経産大臣を継続できなかったのはさぞや残念だっただろう。

TSMCの研究所と工場を日本に誘致することに成功した経産省の西川情報産業課長も在籍わずか2年で他部署に異動してしまった。「外資誘致から産業復活までの道筋が見えない」という声や「外資を優遇しすぎて日本企業への還元が不透明だ」という声(参考資料1)があがるなか、新任大臣や新任課長が新たにどんなかじ取りをするか注目されている。

(本稿は、2022年8月12日現在の情報に基づいており、その後情勢が変化している可能性があります。6月末までの日米次世代半導体共同開発にむけた動向については参考資料2をご覧ください。)

参考資料
1. 「TSMCに巨額支援、果実は? つくばの拠点始動、日本企業へ還元不明」、日本経済新聞 朝刊 2022/06/25 14ページ
および"Will TSMC take Japanese Taxpayer money and Run?(TSMCは日本の納税者のカネで事業を行うのか?)", Nikkei Asia (日経英語版) (2022/07/03)
2. 服部毅、「日本への還元が不透明な経産省の「国際連携」という名の外資誘致の罠」、セミコンポータル (2022/07/05)

Hattori Consulting International代表 服部毅

月別アーカイブ