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米中貿易戦争などお構いなし、中国市場に期待かける米国半導体企業

新型コロナウイルス感染蔓延で世界中のディズニーランドが閉鎖を強いられている中、中国上海のディズニーランドだけは5月11日に再オープンし、心待ちにしていた中国人親子が殺到して入場制限が続いている。米ユニバーサルスタジオは、上海ディズニーランドに対抗して北京への進出を計画中だ。

米国で人気沸騰中のファーストフード店であるポパイズ・ルイジアナ・キッチンの中国1号店は5月15日に上海に開店したが、数百人が行列を作り数時間待ちの状況だという。同社は今後、中国全土に1500店展開するという。米国資本のコーヒーショップもハンバーガーショップも巨大スーパーマーケットもアメリカンスタイルの生活様式を楽しむ中国人家族で大賑わいで、米中貿易戦争などどこ吹く風の状況だ。いずれの米国企業も中国の長期的な潜在成長力に賭けて、経営資源を集中的に中国に投資し中国全土への出店攻勢をかけている。

Qualcommが5GやIoTで中国最大のFPDメーカーBOEと協業

過激な嫌中発言が目立つトランプ大統領に忖度して巨大中国市場を無視していては、米国企業は生き残れない状況だ。米国の半導体企業も例外ではない。多くの米国企業にとって、国別売上高シェアで中国はトップに位置し、最重要市場となっている。米中ハイテク覇権争の最中にあっても、中国事業をテコに成長を目指す米国企業は少なくない。

米中貿易紛争の中にあって米国の大手通信用半導体ファブレスQualcommと、中国最大のフラットパネルディスプレイ(FPD)メーカーである中国の京東方科技集団(BOE)は、新型ディスプレイを共同開発する、と2020年4月に発表した。第一弾として、BOEの高級スマートフォン向け有機ELパネルに、Qualcomm開発の超音波式3次元指紋センサを組み込み(図1)、今年後半にも発売する。指紋認証する信号処理専用チップはQualcommが独占供給する。世界最大の中国市場での売り上げを伸ばしたいQualcommと、新技術導入によるディスプレイ差異化を目指すBOEの思惑が一致したようである(参考資料1)。


図1 Qualcomm のスマートフォン搭載超音波式3次元指紋センサと信号処理ASICチップ 出典:Qualcomm

図1 Qualcomm のスマートフォン搭載超音波式3次元指紋センサと信号処理ASICチップ 出典:Qualcomm


Qualcommが5GやIoT技術まで中国企業に提供する裏事情

実は、Qualcommは中国市場で中Huaweiの子会社の中HiSiliconのハイエンドAPU(アプリケーションプロセッサ)と台MediaTekのミドルレンジAPU、中UNISOC (清華紫光集団傘下のファブレス)の格安APUの攻勢の板挟みでシェアを奪われ、戦略の見直しが迫られていた。Qualcommは、BOEだけではなく、今後中国勢との連携に力を入れていくと表明している。今回の技術提携は、今後、最新モバイル通信技術5Gから、VR(仮想現実)やモノをインターネットで結ぶIoT にまで発展させるという。

貿易紛争の中にあって、米中企業が手を結ぶことに違和感を覚える向きもあるだろう。確かに、米国政府は、中国通信機器・スマホメーカーであるファーウェイ、半導体メモリメーカーの福建省晉華集成電路 (JHICC)、さらに最近は顔認証やAI(人工知能)技術開発企業にまで、米国製品や技術の輸出を禁止している。しかし、米国に競合相手がいないディスプレイに関しては今のところ規制していない。

英市場調査会社Omdiaの半導体アナリストの前納秀樹氏は、著者のインタビューに答えて「指紋センサーに関しては、Goodix、Fingerprint Cards、Synapticsなどが上位におり、Qualcommは市場シェア10%程度で6位にすぎない。一方で、スマホ向けの指紋認証はフルスクリーンに向けたFoD(Fingerprint-on-display)が主流となりつつあり、ディスプレイ技術との関係が切り離せないものとなる。Qualcommとしては、ディスプレイ大手のBOEに技術提供をすることで、指紋情報を処理するプロセッサ側に注力し、将来に向けたBOE(ディスプレイ技術)との連携を強化する狙いがあると見られる。米中連携ということになるが、米国としても4Kディスプレイなど“表示側”へ目くじらを立てる傾向はまだ見られない。一方で5Gでの技術提携は米国当局からにらまれる可能性はあるが、5Gで得られた情報の表示を高速に行うなどあくまでも表示技術に収まるのであれば、中国への技術供与は問題ないのではないか」と述べている。

同社のディスプレイアナリストのカルビン・シェー氏も「米Apple製iPhoneは現在、指紋認証に静電容量式センサを用いている。BOEは、超音波式センサを内蔵した新型ディスプレイをアップルに売り込もうとしており、採用されれば年間1.5億台以上の売り上げが期待できる」と予測している。

BOEがクアルコムの最新技術を次々採用し、いかに革新的なディスプレイを開発してトップの地位を不動のものとするか、またQualcommがこれまでもシャープとの共同開発をはじめいろいろな企業と取り組んできたディスプレイ分野でどこまで売り上げを伸ばせるか注目される。

中国で大増産するSamsung、生産することなく撤退してしまったGF

中国市場を最重視しているのは米国企業ばかりではない。米国政府からテキサス州のファウンドリに最先端ラインを増設するよう要請されている韓国Samsung Electronicsの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が、新型コロナウイルス感染収束後の初めての海外出張国として選んだのは入国制限中の中国だ。韓国および中国の空港でPCR検査を計3回も強いられながら陝西省西安の同社のNANDフラッシュメモリ量産拠点を5月18日に電撃視察した。月産25 万枚(300mmウェーハ)体制を敷いて、データセンター増設で需要急騰が見込める中国市場に期待をかけているように見える(参考資料2)。

一方では、製造業の米国への回帰を唱えたトランプ大統領の意向に逆らって2017年、中国に進出し、成都に300mm 半導体工場を建て生産の準備をしてきたGlobalFoundriesは、様々な事情により、量産を始めることなく先月までに工場を閉鎖し社員を解雇し撤退してしまった(参考資料3)。世界最大消費地として期待のかかる中国へ進出すれば必ず成功するというわけではない。

参考資料 
1. 服部毅:「Qualcommと中国BOE、超音波指紋センサ搭載ディスプレイの開発で協業」 マイナビニュース、(2020/04/20)
2. 服部毅:「Samsung半導体トップが中国NAND工場を電撃視察、21年には月産25万枚体制へ」 マイナビニュース、(2020/05/25)
3. 服部毅:「GFの中国成都の300mm工場、量産を始めることなく閉鎖」 マイナビニュース、(2020/05/28)

注)本稿は5月末時点の情報に基づいており、その後情勢が変化している場合があります。

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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