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シリコンバレーの半導体関連企業は自宅待機・企業操業休止令にどう対処しているか

桜満開の4月を迎えるが、新型コロナウイルスは一向に収束に向かう気配はないどころか、感染者は急増している。米国は、日本以上に蔓延しており、すでに多くの州が非常事態宣言を出して個人の外出禁止や企業の操業休止を命令している。そんな厳しい状況下で、シリコンバレーの半導体および関連産業はどのように対処しているのだろうか。

カリフォルニア州サンフランシスコ市およびシリコンバレーを含むサンフランシスコ湾岸地域の6郡は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、3月17日未明から3週間にわたり市民の外出を禁じる「Shelter-in-Place」命令を出した。同時に、日常生活に最低限必要不可欠な業務(Essential Business)以外の全ての業務もこの期間操業休止するように命令した。さらに、3月19日にはカリフォルニア州は、この命令を州全土に広げた。州の命令は郡の命令に優先し、期限の定めがなく、いつ命令を解除するかは州知事が状況を見て判断するとしており、さらに長期化する可能性もあるという。

Lam ResearchもTeslaも工場閉鎖し操業休止

半導体デバイスや半導体装置・材料製造事業は、必要不可欠な業務(Essential Business)とは認められず、このため、代表的な半導体製造装置メーカーであるLam Research, Veeco Instrumentsはじめシリコンバレー周辺にある多くの製造現場は3月17日から操業休止し、従業員は自宅待機を余儀なくされており、業績の大幅悪化は避けられないという(注1)(参考資料1)。

フリーモントにある電気自動車(EV)で有名なTeslaの巨大なEV組み立て工場(従業員1万人超)は、EV製造を必要不可欠な業務と郡政府や保安官が認めなかったことを不服とし、数日にわたり操業を続けたが、州の命令が出たので今は操業停止している。

世界最大の半導体装置メーカーであるApplied Materials の量産工場は州外にあるが、3月23日に「米国をはじめ各国政府のさまざまな政府命令や航空各社の世界的な運航縮小 により、業界を支えるサプライチェーンやロジスティクス業務に大きな支障が出てきており製造に影響が出ているため」との理由をあげて今四半期のガイドライン(あらかじめ株主に示した業績目標)を撤回した。グローバルなサプライチェーンの分断はLamも指摘している。北米半導体製造業界は、昨年の半導体不況から着実に回復してきたように見えていたが、一転マイナス成長に陥る状況が出てきた。

操業中止命令の工場を持たない半導体企業も苦戦

AppleやBroadcom、Nvidia、AMDはじめシリコンバレーに本拠を構える多数のファブレス半導体設計企業は自社工場を持っていないため、製造自体には支障はない。かつて、シリコンバレーには多数の半導体工場があったが、物価や人件費や法人税が高いため、ほとんどの大手半導体工場は、いわゆるABC (Anywhere but California)戦略で州外に移転するかファブレス化しており、いまは小規模なレガシーファブがわずかに残っているに過ぎない。Intelも本社はシリコンバレーにあるものの主力工場は州外に分散しているため、量産工場の操業という意味では今回の企業操業休止令の影響は受けてはいない(注1)。

しかし、ファブレスの主たる業務である半導体の企画・設計・マーケティング業務は必要不可欠な業務とは認められていないことから、ファブレス半導体企業の社員は自宅に退避し在宅勤務を強いられている。会社で勤務を続けられるのは、通信サービスプロバイダやインフラ保守要員や守衛など必要不可欠労働者(Essential Worker)と認定された社員だけだ。

ファブレスやIT企業は在宅勤務で業務効率は?

シリコンバレーはITビジネスの世界的な中心地なので、さぞかし在宅勤務はうまくいっているように想像する向きもあるが、実態はどうなのだろうか。在宅勤務は必ずしもうまくいっておらず業務遂行に支障が出ていると複数の米国メディアが伝えている。

A社は、極秘で製品開発を行い、発表日まで製品情報が外に漏れぬような厳格なセキュリティシステムを構築し、社員にも秘密厳守を命じてきたが、これが裏目に出て、在宅の社員が社内の機密情報にアクセスできず、かといって開発途中のモノを自宅に持ち出すこともできないため、今後の開発・発表が遅れるのではないかと危惧されているという。別のIT企業では、正社員は自宅から機密情報にアクセスできるが、実際の業務を担う派遣社員や請負社員はアクセスできず、業務に支障が出ているという。

もっとも、この問題が解決し、企業の機密情報アクセスできるようになったとしても、今度は別の深刻な問題が持ち上がる。自宅でインターネットに接続の際、PCに内蔵された通信機能を使用すると。悪意をもったサイバー攻撃や感染を試みるマルウェア(コンピュータウイルス)がインターネットを経由して直接パソコンにアクセス可能になる。これをチャンスとばかりに不正アクセスで企業の機密情報を盗もうとするサイバー活動が活発化しているうえに、偽りのネット会議開催通知なども報告されている。

在宅勤務でインターネット通信負荷がかかりすぎ

また、多くの人が一斉にインターネットにアクセスするため、通信負荷がかかり、作業がなかなか進まないとの声も聞かれるようになっている。さらに、カリフォルニア州では50人以上の集会は禁止されたこともあり、シリコンバレーにあるスタンフォード大学は学年末にあたる春学期(4〜6月)の授業を全てオンラインで行うことを決めたほか、他の教育機関(小学校から大学まで)も同様の措置をとっており、そこに州内の全映画館の閉鎖を踏まえ、新作の長編映画をネット配信するといった動きも出てきており、インターネットへの負荷は高まる一方となっている。

自宅でウエブ会議システムを使って仕事をしようとすると、休校措置で自宅に引きこもらざるを得ず、暇を持て余す子供たちがワイワイ騒いで、仕事の効率が落ちるとの話も聞こえてくる。シリコンバレーはハイテク企業の長期在宅勤務が企業業績にどの程度影響を及ぼすか壮大な実験の場となっている。

データセンターの高速サーバー需要高騰で半導体メモリの売上急増

紺型コロナウイルス汚染拡大で最終製品の需要が落ち込む中、データセンターの高速サーバー需要が高まっているという。ということは、そこに搭載される半導体メモリの需要も伸びているということだ。事実、今年2~3月の韓国の半導体輸出額は前年同期比15~20%増加した。米Micron Technologyも売り上げを伸ばしている。当事者たちも驚く予想外の好調さは新型コロナウイルスの蔓延で米国や中国でネット利用が拡大しているためだというが、長続きするかどうか誰にもわからない(参考資料2)。 

本稿は2020年3月末時点の情報に基づいており、その後情勢が変化している場合がある。


(注1)Lam Researchのオレゴン工場では、複数の社員がウイルスに感染したため、3月末に操業を一時停止した。インテルのオレゴン工場でも請負作業員がウイルス感染したが、クリーンルーム外作業だったため、MPU製造のための操業は継続している(参考資料3)。


参考資料
1. 服部毅、厳戒態勢のシリコンバレー、半導体製造装置企業各社の工場が操業を停止に、マイナビニュース、2020.3.18.
2. 服部毅、新型コロナの影響で韓国の半導体輸出額が増加 - ネット利用の拡大が追い風、 マイナビニュース、2020.3.25.
3. 服部毅、米オレゴン州、Intelの工場で新型コロナ感染者発生 - Lamは工場の操業を停止、 マイナビニュース

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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