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半導体微細化の終焉が見えてしまった?imec微細化責任者辞職の波紋

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ベルギーの世界的な先端半導体およびナノテク研究機関imecで、世界最先端の半導体微細化研究開発を陣頭指揮してきた半導体技術及びシステム担当エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)のAn Steegen氏(図1)が今年9月末に依願辞職し、imecを去った。

図1 imecで半導体微細化を陣頭指揮していたAn Steegen氏 常に自信満々でimecの微細化ロードマップを語っていた 出典:imec

図1 imecで半導体微細化を陣頭指揮していたAn Steegen氏 常に自信満々でimecの微細化ロードマップを語っていた 出典:imec(参考資料2)


筆者は、imecが主催する半導体超クリーン化・洗浄技術に関する国際会議(14th International Symposium on Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces; UCPSS2018)にプログラム委員の一人として参加するため、imecの本拠地であるベルギー国ルーベン市を今年9月初旬に訪れたが(参考資料1)、そこで会ったimec研究者たちは、Steegen氏の突然の辞任話でもちきりだった。数日前に社内でうわさになったばかりだという。同氏を知るすべての人々にとって、彼女が辞職するなんてとても信じられない。

Steegen氏は、imecが世界各地で毎年開催するimec Technology Forum(ITF)や半導体デバイスの国際会議の基調講演などで、半導体微細化の研究戦略を自信満々で講演して、imecの研究開発力のすごさを見せつけてきた人物である。最近は、1.5nmに至る半導体微細化のロードマップを示して講演することが話題になっていた(図2)(参考資料2)。究極の1.5nm時代は202x年には到達するという。Steegen氏は、今年11月に東京で開催されるimecのイベントでも微細化戦略を講演する旨すでに発表されていたことからもわかるように突然の辞職である。


図2 imecの高性能コンピューター開発のロードマップ 図右下の2026年の先に1.5nmという表示が読み取れる 出典:imec, 2018年5月

図2 imecの高性能コンピューター開発のロードマップ 図右下の2026年の先に1.5nmという表示が読み取れる 出典:imec, 2018年5月(参考資料2)


辞任の理由は明らかではないが、「微細化の行きつく先が見えてしまったので人生設計としては次の新たなステップを選択したのではないか」という見方が有力である。というのも、転職先が、微細化とは関連のないマイニング企業だからである。もしかしたらimec経営陣間で微細化研究に関して何らかの意見の対立があったのかもしれないが、imecの一般研究者には雲の上のことはわからないという。
 
彼女は10月1日付けでUmicoreのCTOに就任した。Umicoreは、ベルギー国の首都ブリュッセルを本拠とする世界規模の貴金属・レアメタルなど非鉄金属の精錬・加工・リサイクル事業を行うメーカーで、日本にも茨城と兵庫に工場がある。これとは別に日本触媒ともユミコア日本触媒(株)を設立し合弁事業を行っている。

アプリの研究受託は増加の一途だが、半導体微細化スポンサは数社のみ

imecは、伝統的に半導体やシステム技術(コアCMOS技術、センサ技術、フレキシブル技術)が強かった。しかし、フランダース地方政府の要請で、デジタル技術やその応用に強い地元の研究機関iMindsを吸収合併して以来、IoT中心のアプリケーションドメイン(スマートヘルス、スマートモビリティ、スマートシティ、スマートインダストリ、スマートエネルギー)の研究へ重点を移している。この分野の顧客は、数百社に及び、ますます増える方向である。世界各地のITFへの参加者もすべての産業分野におよび急増している。

ところで、imecの2017年の事業収入は546億ユーロで、2016年の497億ユーロから1割ほどの増収で、業績は1984年の創業以来毎年順調に伸びており、経営に不安はない。このうち、2割が政府からの補助金で、あとの8割は、自助努力による研究受託収入である。
imecの予算のうち半導体プロセス・デバイス開発向けの投資額は、「全体の60〜65%も占めている」(imec CEOのLuc Van den hove氏)という。しかし、微細化研究に資金を出してくれる半導体メーカーは減る一方で、わずか数社である。最近は拡販努力で、先進半導体メーカー以外の中国Huawei のようなユーザーやQualcommのようなファブレスからも研究資金を得ているという。しかし、最近、Globalfoundries (GF) が7nm以下の微細化戦線から離脱してしまい、imecにとっては痛手になるだろう。

imecは、今後、さらに半導体・デジタル技術のアプリケーションに注力する方向だが、そのなかでますます金食い虫で、パートナー(金づる)が減る一方の微細化研究をどのように進めるか課題は残る。

学会活動にも影落とすGFの方針変更

先に述べたUCPSS2018では、GFから3件の発表が行われるはずであったが、すべて無断キャンセルとなった。8月末に、同社は微細化を14/12nmまでにとどめ、それより先の研究や製造は無期延期(事実上中止)すると発表し、すでに先端研究開発部門を閉鎖し、多数の社員を解雇した模様で、その影響がUCPSSのような学会活動にも出た形となった。

GFは、かつては、IBM研究開発センターの技術支援で7nm以降は先端グループ (TSMCやSamsung)と肩を並べようと10nmをスキップして、IBMの協力も得て7nmプロセス開発に取り組んできた。

EUVリソグラフィの生産導入も準備していたようだが、7nm以降の微細化製造技術の実用化のメドが立たず、元の親会社AMDがTSMCに製造委託することを決めてしまったため、急速に地盤低下してしまったようである。世界的に微細化研究を継続できるプレーヤーがますます減ってしまい、GFを技術支援すると共に資金援助を受けて先端研究を行っているIBMの今後にも影を落とすだろう。ニューヨーク州にあるGFの近くのホテルでは、半導体メーカーのリクルート担当者たちが、連日、元GF 先端研究開発担当者の採用面接の場を設定し盛況だという。先端微細化研究者も人生計画の見直しが求められる時代になってきたようだ。

参考資料
1. 服部毅「UCPSS2018レポート」、マイナビニュース (2018/09/19)
2. 服部毅「3nm未満のプロセスをどう実現するのか? imecが語った研究戦略」、マイナビニュース (2018/06/12)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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