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ソニーAIBO開発秘話:aibo復活はソニー復活の象徴になりえるか?

ソニーは、昨年11月1日に、犬型ロボットaiboを戌年にちなんで今年1月11日発売すると発表した。平井社長は発売に先立ち「自分の夢であり、ソニーの象徴だ」として、今年年初にラスベガスで開催された「CES」で新しいaiboを紹介した。2009年に発売開始した初代AIBO(名前の由来は、飼い主に寄り添う「相棒」)は、2006年に製造・販売中止されて以来、12年ぶりの復活になった。今回のaibo復活は、画期的な商品で人々に感動を与えてくれるソニーの復活の象徴としてマスコミにも好意的に受け止められており、平井社長もそれを狙ってわざわざAIBOの復活を決めたのであろう。

図

図1 1999年発売の初代AIBO(左)と2018年発売の新型aibo(右)
出典:ソニー・プレス資料より筆者合成


1999年のAIBOの発表の際には驚きと感動があったが、今回の発表には意外感がまるでなかった。ソニーが、過去のソニー復活をアピールするために、手っ取り早くAIBOをaiboに替えて利用しただけにしか思えなかった。

それはなぜだろうか。初代AIBOの発売は、無からの創成であるからインパクトがあり、人々に驚きと感動を与えたが、今回のaiboは、「ヒトのやらないことをやる」はずのソニーが、過去の製品を模倣した2番煎じに過ぎないからだ。初代発売開始から20年近く経過し、この間IT や半導体技術は指数関数的に進歩しているから、クラウドとやり取りできるとか、プロセッサの速度が大幅に上昇したとか、学習機能が格段に向上したとか、自由度が20軸から22軸になったなど、「失われた12年」の技術を盛り込んでみましたというだけで意外感がまるでない。

1999年、ソニーのAIロボット研究陣は、ネット事業に固執する出井伸之社長からは「ロボットなんて19世紀のテクノロジーだ。21世紀のテクノロジーをやるべきだ」と批判を受けながらも、AIBO の発売にこぎつけた(参考資料1)。当時、「インターネットは(恐竜を絶滅させた)隕石だ」という出井社長のカリスマ的発言をマスコミはもてはやしていた。同社長は、社内の幹部社員を集めた期例会合などでも「これからは、ソフトウェアの時代だ。君たちのようなハードウェア技術者(の出身幹部)は不要だ」という発言を繰り返していた。今、時価総額でソニーに桁違いの差をつけて世界一のAppleが一体何で儲けているのかを見るにつけ、 ソニーの衰退は人災ではなかったのではないかとさえ、思ってしまう(参考資料2)。これは、何もソニーに限らず、日本のエレクトロニクス業界の衰退の一因でもあろう。

ISSCCまでがエンターテインメント・ロボットを採りあげた
2002年のISSCCではソニーが「エンターテインメント・ロボットのための半導体技術:現在と未来」と題する招待基調講演を行うまでに学会でも注目を集めるまでになった。しかし2004年に開催された経営会議で、出井会長は土井上席常務起案のAIBOの後継機となるはずだったヒト型2足歩行ロボットQRIOの販売計画を却下し、このため、ソニーのロボット研究は中止に追い込まれた(参考資料1)。さらに、出井路線を忠実に引き継いだ中鉢社長(現産業総合研究所理事長)は、2006年、AIBOの製造・販売の中止を決定し、その結果、関連組織は人材と共にことごとくリストラされた。「やめるべきはAIBOではなく、リストラしか能のない経営陣だろう」という声が社内に蔓延し、ソニーの将来を悲観した多くの社員が辞めていった。

ロボット開発を陣頭指揮してきた土井利忠上席常務も辞職し、文芸春秋2007年新年号に生々しい手記「成果主義がソニーを破壊した」(参考資料3)を発表し、内容のあまりの生々しさにソニー社内に衝撃が走った。居場所を失ったロボット研究陣は、Google、トヨタ、日産はじめ、ロボット開発に力を入れていた世界各社に転職していった。

AIBO製造販売中止に追い打ちをかけるように、2014年にソニーはAIBOの修理中止を発表し、多くにAIBO愛好者から批判を浴び、社会問題にもなった。そして、今年、AIBOがaiboとして復活するに至ったのである。

ソニー復活をかけたaiboの次の画期的新製品に期待
2006年にAIBOの製造販売を中止したのは、「収益の低い事業を切った」ためということになってはいるが、これはあくまでも当時の経営者の言い分にすぎない。ほんとに収益が低くて切り捨てるべき19世紀のレガシー事業だったというなら、いまさら、模倣品を復活させることもないはずだ。

「AIBOは私の夢であり、ソニーの象徴」(CES2018における平井社長の発言)であるから、上記で述べたような歴代経営者の判断ミスで失われた12年が悔やまれる。ヒト型なのに基本である二足歩行ができない上に、田舎のレストランの店頭でメニューの看板を持ったコックの人形のようなPepperがもてはやされている昨今だが、ソニーはすでに前世紀末に、音声認識が可能で、ダンスのできるヒト型ロボットを開発していたのである。もし開発を続けていたら、今頃、ソニーは、欧米IT企業を凌駕した世界一のAI/ロボット企業になっていたかもしれない。実際、土井上席常務は、「ロボットを21世紀に最初に立ち上がる産業とし、ソニーはその先頭を走る」、とヒト型ロボットQRIO発表の際に意気込みを語っていた。AI技術を駆使して、ネットにもつないで、AIロボットを21世紀の成長産業にしようと夢見た革命家が過去にはソニー社内にいたのだ(参考資料4)。

ソニーが本当に復活したと宣言したいのであれば、aiboの次に、過去のソニー製品のように人々にサプライズと感動を与え、社会にインパクトを与え、人々の生活スタイルすら変えてしまうような画期的な新製品を見せてほしいものだ。

参考資料
1.「ソニー、ロボット撤退の舞台裏」と題する大鹿靖明記者による一連の詳細な調査報道記事、朝日新聞、2014年5月1日付1面ほか
2.原田節雄(元ソニー社員)、「ソニー失われた20年―内側から見た無能と希望:第6章 愚弄の山を築く人々」、さくら舎、2012年
3.天下伺朗(元ソニー上席常務土井利忠氏のぺンネーム):「元常務がつづる危機の本質、 成果主義がソニーを破壊した―偉大な創業者、井深大の理想はなぜ潰えたか? 」文藝春秋 2007年新年特別号、pp.146-154
4. 服部毅:「テクノ大喜利:現状のロボットは機械が主で電子が従、ただし人工知能で主従は逆転」、日経xTECHウェブサイト、  2015.8.25付け

Hattori Consulting International 代表 服部毅

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