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Time-to-market優先策を実行しいかに生き残るか、覚悟が求められる経営者

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自社開発でずっとやってきた会社が、別のハイテク企業とコラボレーションしたという事例を欧州で聞いた。通信技術の得意な、あるフランス企業はある英国のコンピュータ技術ベンチャー企業と提携した。そのフランス企業によれば自分たちでも開発できるが、それでは商品化時期が遅れてしまうという。結果的に、競争企業に負けてしまう。

この英国のコンピュータのベンチャー企業は、独特のアーキテクチャを使って極めてフレキシブルなプロセッサを設計している。いわばソフトウエア無線を実行する専用のプロセッサである。そのコンピューティング技術を使ってHSPAやLTE、4Gなど次々と登場する新しい通信規格に対応し、しかも小さなチップ面積で要求される機能を実現したくて、フランスの通信企業は英国のベンチャーと組んだ。

まさに、機会損失を避けビジネスチャンスを生かすためにとった戦略である。Time-to-marketの重要性はアタマでは分かっているが、実行する場合にはつい自社開発に走ってしまう、という企業が多い。これを避けるために機会損失を経営指標に取り込むべきではないだろうか。昨年9月26日のブログ「機会損失を経営指標に織り込め」でこのことを述べた。

これまで、概論賛成、各論反対、という企業や組織を飽きるほど見てきた。いつも「わかっているのにできないのです」と言い訳していた。このような言い訳をしている限り負け組から抜けられない。どうすればこのダメな連鎖を断ち切ることができるか。機会損失を防ぎ、ビジネスチャンスを取り込む仕組みを企業や組織の中に導入すればいい。それをいやでも実行する仕組みを作るのである。さもなければいつまでたっても何の改革もできない。Time-to-marketを最優先する企業がTime-to-marketに間に合わなければ、失ってしまう売り上げを計上し、予算に織り込む、あるいは事業計画に織り込む、できなければ責任をとる、というような指標を事業戦略に載せればよい。

逆に、経営者や管理職自らをそこまで縛らなければ実は何もできない。それができないのであればやめていただくという目標も織り込むという極端な場合もある。日本経済新聞の私の履歴書で、1~2年前にフランス・ルノー社のシュバイツァー会長の回想録が載っていた。日産の社長に就任したカルロス・ゴーン氏が日産リバイバルプランの目標値を1年後に達成できなければ辞任する、という覚悟を発表したとき、シュバイツァー会長はそこまで言い切るのかとびっくりしたそうだ。ゴーン社長はそこまでの覚悟をして日産を蘇らせた。

トップが従業員の姿勢・態度・仕事への意欲などをヒアリングし、問題点を話し合い、整理して次の戦略を作り込み、さらにこのような覚悟を従業員に徹底的に伝えていけば部下はついていく。2兆円もの借金をわずか1年半で返した日産のリバイバルはまさに従業員の意識を大きく変えたことがすべてである。

Time-to-marketに遅れることによる損失は実は計り知れないところまで来ている。最適なタイミングで最適な製品を出すことが今ほど強く求められている時代はない。開発に5~6年もかかっていた時代はその必要は全くなかった。2番手戦略で十分稼げたからだ。

しかし、今の時代は全く違う。かつての栄光におぼれ、昔の意識しか持っていないトップの組織は従業員がかわいそうに思う。泥船が沈むのを待つしかないからだ。

そうならないように、コンペティタの先を行き、市場の求めるものを提供するためにあらゆるオプションを考える。オプションの一つが英国などイノベーション技術をもつベンチャー企業群である。実は、先週サンフランシスコで聞いたハイテク企業の賢い技術の話を聞くと、実は本社やR&Dセンターを英国ケンブリッジに置き、米国シリコンバレーに営業あるいは本社を置くというベンチャーもあった。

英国企業をどう使うかは、日本の企業次第である。さまざまなオプションを整理してどの道をとるべきか議論した後、結局決断するのはトップである。トップの責任は重い。

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