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機会損失を経営指標に織り込め

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先日、ある外国系の半導体IPプロバイダの日本法人社長と話をしていたら、大手半導体企業に自社のIPを売り込みに行くと、「このIPなら自分で開発できます」と技術部長は上司の役員に言うそうだ。つまり、IPを外部から買うよりも自分で開発した方が安くつくと考えているのだという。

10数年も前ならこの判断でよかったかもしれない。開発に5年、6年を費やしていた時代の製品ならこの判断は正しい。しかし今は、時は金なり、開発期間の短縮が至上命題のはずだ。IPの開発に半年から1年もかかるのならこの判断は間違いである。市場が今あるうちに投入しなければビジネスチャンスを生かせず、むしろ機会損失を被ることになる。この損失を見積もる仕組みを企業は導入すべきであろう。そして、損失を利益に転換することにつなげていかなければ、勝ち組になれない、すなわち競争に勝てないことをしっかり認識すべきだと思う。

この話を、早稲田大学のある教授に話すと、大手企業の部長クラスがもっとも経営判断ができないのだという。たとえ技術に長けてもそれを生かすタイミングをつかむことができない。ビジネスチャンスというと、ビジネス能力のある者がお金をうまく儲けるタイミングを読むことを指す言葉のように聞こえる。ある意味では当たっているかもしれないが、逆にそのビジネスチャンスを失ってしまえば、機会損失を生じてしまうということを肝に銘じなければならない。機会損失を被らないように製品開発していくことをもっと強調することで、企業が競争に勝てるのである。

つつがなく何も失敗せずに任期を全うすることだけを考えているような経営役員の企業は絶対に勝ち組になれない。すなわち競争に勝てない。従来の大手企業の役員や公務員などがこのような態度を持っていたとすれば、それが日本チームの負けを生んできたと言えよう。目の前にぶら下がっているせっかくのチャンスを生かせなければ将来へ成長できなくなる。だから自社の得意な技術を生かし、経験の少ない分野の技術は積極的に外部から買う、という姿勢が新しい製品を短期間に開発するうえで必要なのだ。市場が求める製品を他社よりも早く出せばビジネスチャンスを生かすことができ、競争に勝てるようになる。しかし、他社よりも遅れれば稼げるはずの市場を逃がしたことにつながり、その結果どれほどの損失を計上してしまったのかを計算すればよい。さらに、どれだけ成長できるはずの売上を見込めなかったか、につながっていく。

特に開発期間短縮が市場命題のデジタル家電時代に突入し、日本が本来得意なはずの家電分野で後塵を拝しているのは、機会損失を生まない、という経営姿勢が明確になっていないからではないか。自社の得意な分野には積極的に自社開発を進め、ここに知的財産を盛り込みブラックボックス化し、不得意あるいは慣れない分野は外部から購入するという水平分業時代に合わせた戦略を技術部長レベルにまで浸透させることが経営層の役割ではないか。当然、パートナーと協業するテーマはインターフェースになる。

時間という軸を売り上げに必要な戦術に盛り込む経営戦略がタイムツーマーケットの短縮に欠かせないのだと思う。


津田建二

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