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ストックオプションは株を購入できる権利にすぎない、心配な司法の事実認識能力

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最近の司法の判断は本当に適切か、疑問に思うことは私だけではないと思う。今年のはじめ、このブログで、ほとんど同じような歌詞と、その元になった漫画で使われた言葉を比べてみたが、裁判官はそっくりの歌詞を使った側に、名誉棄損の賠償を受け取ることができるという判決を出したことを紹介した。原作を書いた方が負け、ほとんどそっくりの歌詞を書いた方が勝ったのである。

同じようにびっくりした判例の一つに、ストックオプションというテーマがある。私個人とは全く関係のないテーマではあるが、司法の「常識」がわれわれ産業界の常識とは全く違うことを知っていただきたいために前回の松本零士氏と槙原敬之氏の裁判事例について書いた。私はジャーナリストであるため、株式の取引は基本的にできない。株を持っているだけで家族も含めインサイダーの疑いをかけられるからだ。一般に新聞で公表される以前に事実を知ってしまえる立場にあるものはジャーナリストや編集記者だけではなく、広告原稿を扱う者、PR会社、当該企業内部の者などがいる。インサイダー取引は立派な犯罪だ。ジャーナリストである以上、株取引はたとえ身内であろうともすべきではない。株で連戦連勝している人がいればその周囲を必ず疑ってみることは捜査の基本中の基本であることは肝に銘ずるべきだ。

自分の立場がストックオプションとは全く縁のない話であることを断った上で、司法の解せない判決にはやはり異論を唱えようと思う。ストックオプションとは、株式を購入できる権利をくれることである。株を譲ってもらう訳では決してない。自分のお金で購入する。ただ、その購入すべき期間は与えられており、その期間内の株価が最も高くなりそうだと思った時に買えばいいのだ。しかも提示された株価は市場よりも最初は少し高い。しかし、その株価は一定であるため、最近のように株価が下がり続けているような時は、むしろ買ったら損をする。そんな権利は要らないかもしれない。

このようなストックオプションを給与所得とみなす判決が数年前に出た。原告は元外資系半導体および半導体関連企業の日本法人社長ら数名。この判決に対して最初は取り消し請求裁判に加わったものの、その裁判を取り下げた元アーム株式会社代表取締役社長だった石川滝雄氏は、次のように言う。「私だけが、課税債務があり得ない無効処分であるとして、取り消し請求の「原告適格性」がないとして、判決前にこの裁判を取り下げています。しかしながら、今後明らかにする予定ですが、不法な差押えが行われ、その返還請求を兼ねた国家賠償請求裁判を提起しようとした矢先に、逮捕するという暴挙が起きたのです」。同氏は一時所得だとしてその税金はすでに支払っていた。

数年前にこのニュースを新聞で見て、何かおかしいと思った。ストックオプションが何なのかを本当にわかっていればこのような暴挙に出るはずがないからだ。ストックオプション行使とは、ストックオプション制度を利用して自分のお金で株を購入することである。株を購入したからといっても現金収入はない。ここに課税するのには無理がある。電化製品をバーゲンセールで安く購入したようなものであり、それを購入した金額よりも高い値段で誰かに売って利益を得れば課税対象になる。単にバーゲンセールでモノ(株式)を買ったようなものにすぎない。

石川さんにこのことを尋ねたら、やはりおかしなことだとして、いろいろな判例を調べたり、司法関係者にヒアリングしたりして整理しているところだと、言われた。石川さんからその後、今回の判例についてまとめたものを見せていただいたが、正直言ってよく理解できなかった。このほど、ホームページにまとめた。ストックオプションとは何か、から始まって企業会計と税務の関係などについても触れられており、ストックオプションについて知見を得ることができる。(ただし、このホームページはWindows Explorerではきちんと見られない場合があり、safariかfireFOXを推奨している)。

石川さんのこのコンテンツを読むと、やはり司法が事実誤認のまま、最高裁まで行ってしまったのではないかと彼は感じている。ということは司法が事実をきっちりと把握認識しているかどうかが、判決を大きく左右しているように思える。青色ダイオードを発明した中村修二氏の最終判決についても企業で働いた個人に対して、200億円というとんでもない額の判決が数年前に出た。1つの商品の発明に寄与する個人の分をあまりにも膨大に評価しすぎる判決に対して司法の常識を疑ったのは私だけだろうか。半導体産業では、IPや特許問題、エンジニアの待遇と特許の価値などについて、納得のいく判決だと思える日はいつになったら来るのだろうか。司法の方々に事実を認識する能力アップをぜひともお願いしたい。

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