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芸能ニュースに見る、司法は本当に大丈夫か、われわれの知財ビジネスは大丈夫か

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今年は、IPR(知的財産権)や特許などのIPをもっと重視することで付加価値を上げ、企業価値も高めていくという戦略がこれからの日本企業には重要になってくると思う。この件に関して、エレクトロニクス、半導体には直接関係ないと思われるような芸能関係の裁判の判決が昨年暮れに出され、どうしても心に引っ掛かることがあったので紹介していく。12月27日付けの日本経済新聞に掲載された芸能記事(社会面)によると、歌手の槙原敬之氏に漫画家の松本零士氏が220万円の損害賠償を支払えという判決が出ている。

ことの発端は以下のようである。松本零士氏の漫画「銀河鉄道999」の中のセリフで「時間は夢を裏切らない。夢も時間を裏切ってはならない」というくだりがあるそうだ。ところが、槙原敬之氏が作詞作曲し人気デュオのケミストリーが歌った「約束の場所」という歌詞の中に「夢は時間を裏切らない。時間も夢を決して裏切らない」という部分がある。この部分の歌詞を槙原氏が盗作したかのように松本氏はテレビで非難したらしい。

「時間は夢を裏切らない。夢も時間を裏切ってはならない」(松本氏の銀河鉄道999)
「夢は時間を裏切らない。時間も夢を決して裏切らない」(槙原氏の歌詞)
この二つの歌詞を並べてみると一層その相似がわかりやすい。ここまで似ている表現を創作することは至難の業である。仮に似ていることが後でわかれば、プロの文章家なら書き直して全く別の言葉を探す。オリジナルな言葉を作り出す使命があるからだ。

ここの部分について、松本氏がテレビ番組で歌詞が盗作されたように非難したことに対して、槙原氏が逆に名誉棄損で訴え、勝訴した。裁判の中では、槙原氏は歌詞を使ったとは認めていないが、松本氏は電話で歌詞の参考にしたことを認めたと言っており、どちらの言い分が正しいのかどうか、明らかにはなっていない。日経の報道によると、裁判長は「歌詞と漫画の表現は相違も大きく、漫画に依拠しているとは断定できない」と指摘したという。

この裁判長の言葉の記事を見て、目を疑った。この記事が事実なら、歌詞と漫画との違いは、メディアの違いといってもよい。メディアが違えば、コンテンツ(内容)が同じでも「パクッてもよい」ということになる。もしエンジニアA氏が優れたソフトウエアを開発し、それを流通させたとして、別の人間B氏がそのソフトウエアを無断で使いほんの少し変えてマイクロコードにしてチップに焼き付け販売しヒットさせたとしよう。ソフト開発者A氏がそのチップデザイナB氏がパクったとテレビなどで批難すれば、開発者のA氏は名誉棄損で敗訴するということになる。

知的財産権を獲得するためには並々ならない努力が必要で、一朝一夕には実現できないことが多い。文章を作るという作業も同様である。日本語で簡単な文章でも長い文章でも実現するのは、同じ程度につらい作業を経ることがある。コピーライターはキャッチコピー文1行を書くために数時間ないし数日を費やす。ピッタリと言いきる表現を探すために考え抜いたり調べたりする作業に時間がかかるのである。私の経験でも、雑誌の記事のタイトルわずか1行を作り出すのに数時間かかったことさえあった。だからこそ、文章や歌詞には知的財産権が認められている。

半導体チップに焼き付けるマイクロコードや回路にも知的財産権が認められており、他社が無断でマイクロコードや回路を読み取って自分のチップに焼き付けることは知的財産権の侵害に当たる。最近は、偽物チップが市場に出回ることが多く、いわば半導体チップの産地偽装ともいえる。

今回の判決で危ないと思ったのは、もし産地偽装チップが出回り、まともなメーカーが偽装チップメーカーを公の場で非難しても、チップがモジュールなどの別のメディアになっていると名誉棄損で逆に訴えられるという危険があるということだ。最近、新聞や週刊誌で裁判官、司法関係が崩れている、というセンセーショナルな記事の見出しを目にするが、今回の判決はまさにパクったもの勝ちという危険な世の中になることを示唆している。

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