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福田首相の辞任の真相は闇の中、求められる経済成長のためのビジョン

福田康夫首相が昨夜突然、辞任を表明した。首相になってまだ1年足らずである。昨夜のテレビ会見を何度も見たが、辞任の理由はオブラートのように不透明に包まれて全く理解できない。今からほぼ1年前に前任の安倍首相も同様に1年程度の在任で辞任した。安倍首相は病気が原因であったが、共にわずか1年で辞任とは偶然だろうか。何かのチカラが働いていると考えることは自然ではないか。そのチカラとは何か。

考えられうるチカラの震源は、自民党内、公明党との軋轢、霞が関など、さまざまあろうが、大事なことは一度首相になった人間をわずか1年で変えてはならないということだ。というのは、海外から見ると日本の首相はしょっちゅう変わるから誰を信頼すればいいのかわからないからだ。加えて、誰がなっても体制に影響はないと馬鹿にされているともいえる。事実、海外メディアはこのニュースをさほど大きく採り上げてはいない。首相を選んだのであれば最低でも3~4年はやっていただかなければ、やっていただくように協力しなければ、日本国そのものが世界から尊敬されないのである。

支持率の低いブッシュ大統領でさえ、辞任するほどのスキャンダルがなければそのまま任務を遂行してきた。与党、野党を問わず、首相は最低3~4年やるべきで、1年で辞めてはいけないし、よほどの反倫理的な行為でもない限り辞めるように圧力をかけてもいけない。学校でのイジメの問題が国政でも行われているような気がしてならない。まずは国会という場で在任期間をルール化すべきではないだろうか。

これから、組閣を始めなければならないが、誰が首相になるにせよ、まずはこの国を10年後、20年後にどうすべきか、ビジョンを出しそのビジョンを実現するための手段を煮詰めていくという道筋を付けていただきたい。構造改革がこのままでは腰砕けになり、日本沈没がますますはっきりしてくるからだ。

今の日本の状況は20年前の英国とそっくりである。灰色の国、英国病などと揶揄され、長い間労働党政権が支配していた影響で、一生懸命に働いても働かなくてももらうものは同じだから働かない、という社会主義のような考え方がはびこっていたような雰囲気だった、とサッチャー元首相はその回想録で述べている。今の日本も社会主義国家に近い国だと揶揄されている。

サッチャー首相は、まずビジョンを立てた。「民間企業が自分の意志で自由に市場へ参入できる社会を目指すこと」が彼女のビジョンだった。この社会こそ、経済活動を活発にし、そのことで国民が豊かになり、国家としても豊かになれる、と彼女は考えた。民間企業が市場に自由に参入できるようにするため、さまざまな規制を取り払わなければならない。そうすると行政の役人の職が奪われる。職を確保するために海外企業をどんどん呼び込んだ。国内企業の多くは社会主義的考えに染まっていたからだ。海外企業が雇用を促進してくれた。サッチャー首相は海外企業を積極的に誘致するため来日し、日本企業を訪問し英国への進出を誘った。NECや日産自動車が英国へ進出したのはこの頃だ。

今や、英国では外国企業の直接投資額はGDPの40%程度にも上る。英国にはやたらと外国企業が来ていることになる。政府は常に外国企業を誘致するための組織を保ち、サッチャー内閣から、ジョン・メイジャー、トニー・ブレア、さらに現在のゴードン・ブラウン首相へと引き継がれ、しかも保守党から労働党に替っても構造改革の手は緩めない。むしろ積極的に推進している。今でも経済産業省に相当する省は、BERR、すなわちDepartment of Business, Enterprise and Regulatory Reform:ビジネス・企業・規制改革省と呼んでいる。

外国企業を誘致するための省庁もずっと維持してきている。昨年、ブラウン首相は組織改革を行い、投資庁をUKTI(UK Trade and Investment:英国貿易投資総省)に格上げした。日本は小泉前首相の掛け声で、外国企業の直接投資額は対GDP比で2000年の10倍である2%にようやくなった。しかし、今や10%以下の国は珍しいくらいグローバル化が各国で進んでいる。

サッチャー改革が奏功した90年代はじめ以来、英国経済はずっと右肩上がりで来ている。最近でこそ、サブプライムローン問題の影響を受けやや景気後退の局面に来ているが、改革が英国を蘇らせたことは疑いの余地はない。サッチャー改革というお手本があるのにもかかわらず、なぜ日本は改革が進まないのか。これが日本の最大の問題である。次期首相には、英国のお手本をぜひ実行していただきたい。

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