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理系出身の経営層にぜひ読んで欲しい1冊
ストレスなしでビジネスで成功する!

日系移民の子として生まれ、米国ハネウェル社に研究者として入社しながら上級副社長まで上り詰めたカール・ノムラ氏が執筆したビジネス書が出版された。翻訳者は、東芝の半導体技術ならびに事業戦略を主導し、東芝セラミックスからMBOによりコバレントマテリアルを設立、同社の社長・会長を務めた香山晋氏である。技術者が経営者となり、成功を収めるための行動原理を説いた本著は、日本の電機・半導体メーカーの経営者に参考になる書であろう。

図 ストレスなしでビジネスで成功する!

図 ストレスなしでビジネスで成功する!


この本は、企業人として、そしてマネージャーとしての心構えを、実体験を元に解き明かしたもの。ハネウェル社は、1970年代はじめコンピュータで先行するIBMを捉えるため、東芝に半導体の共同開発案件を持ちかけた。当時、東芝のエンジニアだった香山氏が1973年から1年半、ハネウェルに駐在し共同で半導体開発に従事した。この時のハネウェルにおける彼の上司がカール・ノムラ氏だった。

ハネウェルは、米国防総省(DOD)が主導したVHSIC(Very High Speed Integrated Circuit)計画の主力契約企業の一つだった。ハネウェルは産業用機器の大手であり、機器の心臓を握る半導体事業も手掛けていた。中央研究所での研究者からスタートした彼が半導体事業の責任者になり、ビジネスセンスを養っていく。研究者やエンジニアが出世して経営者になっていくさまは、日本の半導体メーカーや電機メーカーのエンジニアの道とよく似ている。

企業活動ではチームワークが必要であると同時に、チームをどうまとめて一つの方向に向けて行くかというマネジメント能力も求められる。マネージャーとしてあるべき課題として、従業員、顧客、経営・管理スタイル、仕事の優先順位、製品と技術、事業計画の立案、サービス事業、プロジェクトマネジメント、プレゼンテーション方法などについて述べている。さらに付録においてノムラ氏と香山氏がそれぞれ自身の半生についても語っている。

自分の経験を元にしているから説得力がある。例えば、「私はかつて、給与が主要な動機付けだと考えていた」と正直に述べている。しかし、意識調査をしてみると第1位は経営陣や上長に認められることだった。給与は、研究者にとっては8番目、単純作業を繰り返す従業員でさえ4番目だったと述べている。この結果から、従業員のやる気を起こさせることに注意を払った。よい仕事をした時にはみんなの前で賞金を与えたり、業績表彰したりした。一方、叱る時はこっそりと内々に行っていた。

ノムラ氏には、手本となる上司がいた。その上司を見習うようにしたことも経営マネジメントを実践・学習していく上で役に立ったと述べている。

この本は「ストレスなしでビジネスに成功する!」というタイトルであるが、ノムラ氏自身も経営トップから、従業員の1/3を削減して利益を上げるように、と言われた時はストレスが急上昇したという。しかも「あいつが俺たちのクビを切った」と言われた時は家族も苦しみ、修羅場という表現をしている。

また、第7章のサービス事業では、退職後にNPO法人を経営することになり、障害者を雇用して収益を上げたという経験についても述べている。障害者が喜んで仕事ができるようなビジネスを考え、さらに事業を継続させるために営利目的の企業と同じように経営することが重要だと指摘した。この章は、「ヤマト福祉財団」で障害者の給料を1万円から10万円に上げるために奮闘した話を、ほうふつとさせた。この財団は、クロネコヤマトで有名なヤマト運輸の社長だった小倉昌男氏が私財を投げ打って設立したもの。

この本を読み終え、ノムラ氏は正直な人柄だったと思うようになった。失敗例も正直に述べられているからだ。自分の成功体験に基づき、「こうしなさい、ああしなさい」と自分の都合の良いことしか述べない書物とは全く違う。同じエレクトロニクス・半導体ビジネスに係わる管理職には是非読んでいただきたい1冊だ。学びとるところは多い。

(2013/04/16)
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