セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

ここがヘンだよ、ニッポン3〜垂直統合企業の良さを生かしきれていない

|

半導体産業の真っただ中にいると、「微細化はもう経済的に行き詰まるのではないか、いよいよ半導体産業はもう限界が迫ってきた」という声をいただくことがある。「半導体はもうおしまい。これからはエネルギーだ」との声も。不況時には総合電機は「半導体が赤字だから業績が悪かった」と発表した。しかし、半導体産業を暗く見るのは日本だけである。

図1 電子機器に使われる半導体の割合はいまだに成長 出典:IC Insights

図1 電子機器に使われる半導体の割合はいまだに成長 出典:IC Insights


海外では半導体産業がもう終わりだという声は全く聞かない(参考資料1)。半導体ユーザーであるセットメーカーに取材すると「これから半導体が伸びていく時代になる」という認識になる。現に半導体の調査会社の一つ、IC Insightsが発表した、電子機器のコストに占める半導体部品の割合のデータ(参考資料2)では、半導体の比率がますます、ただし着実に高まっていくことを示す(図1)。これからが半導体の時代になる、と述べた米国半導体企業のCEOは複数いる。

日本の、それも半導体産業がもうダメと悲観的に考える姿勢との違いは何か。これを追求し、日本の産業の姿勢を改めることこそ、日本の半導体産業を復活させるカギとなる。

つい最近まで、日本は垂直統合が強みで、社内ユーザーの要望を汲み上げ、市場に合った製品を作りだしてきた、と言われてきた。設計から製造まで一貫してモノづくりに打ち込んで来られたからこそ、品質の高い製品を生み出すことができた、とも言われた。確かに、きれい事ではその通りだろう。しかし、実態を見ると、各事業部門がタコつぼ的に運用されており、横のつながりがほとんどない。実際に半導体チップを欲しい部門だけが半導体部門に近づいていただけの話であり、それ以外の事業部門との情報共有は全くと言っていいほどなかった。霞が関の縦割り行政と同じ仕組みが民間企業で行われていたのである。

1980年代に富士通がFMタウンズというパソコンを出した時、同じ富士通の他の部門が販売しているパソコンとつながらなかった、という笑い話は有名である。これは富士通に限った話ではない。他の企業でも似たような話をよく聞く。

1980年代後半から日本の半導体が世界チャンピオンになった時、彼らの顧客は社内よりも海外(米国)が圧倒的に多かった。IBMやHP、DEC、NCR、HoneywellなどにDRAMを納めていた。つまり、社内ニーズを拾うというビジネスではなく、JEDEC(標準化団体)を通じてパッケージの標準化動向をウォッチし、海外の顧客に対応することに注力していた。筆者も当時半導体エンジニアと一緒になってJEDECのトピックスを追いかけていた。NECも日立製作所も東芝も三菱電機も富士通も、大手顧客は社内にはいなかったのである。

つまり、言われているほど垂直統合の強みを生かしてきた訳ではなかった。もし、この強みを生かすのなら、ユーザーからの要求が来た時点で、設計も製造プロセスもパッケージングも同時に開発を始めることができただろう。ボンディングパッドのサイズやピッチが決まり、マルチチップかシングルチップか、SiPかMCPか、製造に必要な材料や装置のサプライチェーンまでも遡って設計できたはずだ。

強みを生かそうとすればするほど、必要な全ての事業部門で情報を共有しなければならない。残念ながら日本の企業はこれができていない。各事業部門同士で競争しているからだ。全く同じ製品を作っている訳ではないのに、なぜ社内で競争するのか。むしろ製品では競合しないのだから積極的に話し合い、情報を共有すべきではないか。台湾の強みは、同じ製品を作らない企業同士だからこそ、台湾人同士で情報交換共有できるため、米国の華人と台湾との結びつきが非常に強い。この結果、米国の最新情報がいち早く台湾に入るのである。事業部門のリーダー同士のつまらない出世競争に巻き込まれたことが結果的に日本企業を弱くしてきたともいえる。

海外企業が立ち直った要因は、社内でブレーンストーミングを行い、自社の得意な分野、不得意な分野、これから成長できる分野、脅威となる条件、といった4つのSWOT(strength、weakness、opportunity、threat)分析を冷静に行い、実行したことである。ブレストのメンバーには部門のリーダーを外すべきであり、社内の利害関係のない優秀な人材を集めることに尽きる。さらに、企業が10年以上に渡って成長していくためにはどういう製品、技術、人材に注力すべきかを議論し、不要な部門を捨てるのではなく従業員ごと売却することを考えることが重要だ。ただ捨てては残る人材のモチベーションが下がるからだ。

成長をさらに大きくするためには、何を強化すべきかについても議論する。そのための方法論の一つが企業買収である。米Texas Instrumentsがアナログにフォーカスすることを1996年に決めた後、企業買収を積極的に行い、アナログ分野で弱いところを強くしたことはその一環である。高精度アナログのBurr Brown、RFの低消費電力技術のChipcon社、最近ではパワーマネジメント部門でトップのNational Semiconductor社を買収したのは、それぞれ弱い部門を強化するためだ。今後はおそらく、弱いカーエレクトロニクス部門を強化するためカーエレが得意なアナログ企業を買収するに違いない。

海外半導体企業が自社の強みを生かし、さらに強化することで成長しているのに対して、日本の半導体企業はどうやって成長していくのか。ここを真剣に考えれば半導体がこれからも成長分野であることが理解できるようになる。そのための成長分野が、スマートグリッドであり、再生可能エネルギーであり、LED産業であり、電気自動車、医療・ヘルスケアである。これらの分野のシステムがどのように作り上げられ、今はどこまでできているのか、それぞれの分野の問題を抽出・理解し、そのソリューションを提供することこそ、成長していく半導体製品となる。そのためには海外も含めた情報を収集・分析し、さまざまな顧客とのヒアリングを通じて最大公約数的な集積回路を設計するという、システム指向に頭を切り替える必要がある。海外企業ができて、優秀な日本企業ができないことはない。システム指向の時代を認識する必要があることに関しては次回、述べよう。


参考資料
1. 津田建二「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞社刊、2010年4月、および同「欧州ファブレス産業の真実」、同、2010年11月
http://pub.nikkan.co.jp/books/search/profile:%E6%B4%A5%E7%94%B0%E5%BB%BA%E4%BA%8C
2. 電子機器に使われる半導体の割合は過去最高の25%を超える (2011/01/19)

月別アーカイブ