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ここがヘンだよ、ニッポン2〜研究開発か起業か

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新しい技術が登場した場合の、日本と海外との違いを見てみよう。最近の例として、Siウェーハ上にGaN層を形成し、LEDやパワーデバイスを作る動きがある。LED照明のチップとなるGaNダイオードは、これまで高価なSiCやサファイヤ等の結晶を基板として形成されてきた。LEDのコストを下げるためには大口径化が欠かせないが、これまでの製法ではコストが上昇する。このため、結晶基板に安価なSiを使おうという研究、開発の動向がある。ここに日本と海外との大きな違いを見た。

8月17日のテクノロジー(参考資料1)で報道したように、海外ではGaN-on-Si関係のベンチャー企業が続出している。Si上にGaN層を形成する技術を開発する企業、その上にLEDダイオードやトランジスタを設計生産する企業などが活発に創業を始めている。600VのGaN パワーHEMTを開発、高価なSiC基板で作った青色LED並みの高い輝度のLEDをGaN-on-Siで実現、GaN-on-Siウェーハを発売、といったようなベンチャー企業たちだ。

国内におけるこういった動きは市場指向ではなく、最初から研究指向だ。7月27日に名古屋工業大学と経済産業省中部経済産業局が共同で、「窒化物半導体マルチビジネス創生センター」を創設すると発表した。これは、名古屋大学が持つ、Si上のGaN形成技術を核に窒化物半導体パワーデバイスの実用化・事業化に向けた研究開発推進拠点を作るということである。いわば、GaNパワーデバイス用のインキュベーションセンターだ。総事業費22億円をかけて2013年の3月に建物が完成し、大学に加え民間企業13社と公的研究機関1つが入居する予定となっている。いわばまず、ハコモノを作ろうという発想だ。

海外との差は、同じテーマでも起業してしまう点とR&Dセンターとなるコンソシアムを作るという点が大きく違う。さっさとビジネスを立ち上げ、そのための資金をVC(ベンチャーキャピタル)から調達するのが海外だ。米国が中心となっている新興企業だが、欧州のIMECもパートナー企業と組み8インチウェーハを使ってGaN-on-SiのパワーMISHEMTと標準CMOS回路を集積するデバイスを開発し、事業化を目指している。IMECはパートナー企業を明らかにしていないが、事業化を早く進めるのは間違いない。

名古屋のプロジェクトは、地元のLED大手、LEDメーカーの豊田合成に対して遠慮しているテーマのように見える。というのはGaNが白色LEDの材料なのにもかかわらず、応用をパワーデバイスに限定しているからだ。8インチのような大口径シリコン上にGaN青色LEDが形成できれば、白色LEDの価格を大きく下げることができる。これはLED照明を普及させる点で極めて重要な要素になる。ただ、世界中のGaN-on-Si開発競争が実ればLEDの低価格化は必須となり、豊田合成は低コスト技術で出遅れることになる。むしろ、LEDの低コスト化もテーマにして豊田合成が安くても利益の出るLEDを開発する方が、世界的にコスト競争力が付くだろう。

市場経済の社会では、研究開発する組織よりも、起業してビジネスとしてお金を回していく方が競争力は高くなるはず。世界が続々起業するなら日本も起業する方へ持っていくべきではないだろうか。例えば、パワーHEMTを開発する米Transphorm社は、シリーズD資金調達としてVCのQuantum Strategic Partners社から2500万ドルを調達したと、6月23日のニュースリリースで述べている。2011年2月に設立された同社は、これまで出資してきた有名なVCであるKleiner Perkins社やGoogle Ventures社、Foundation Capitals社、Lux Capital社の分も合わせると合計6300万ドルになる。同社は社長(CEO)をはじめ、業界経験20年以上のベテランのエンジニアを揃え、成功させる確率を高めている。

日本では新しいテーマがあると官民の共同組合やコンソシアムを作ることが優先され、ビジネスを進めていく方向には行かない。ここが海外と大きく違う点だ。官民コンソシアムを否定する訳ではないが、これまでうまくいかなかった反省を盛り込み、成功させるための仕掛けを作ることが先決ではないか。デバイスを使う顧客(エンジニア)と話をしたこともない研究者に出口を求めても無駄なことは言うまでもない。

だからこそ、例えば、雇用の創出を考えたスピンオフを促したり、起業を勧めたり、自立して資金を回せる仕組みを作ることが税金を国民に還元させる方法になる。海外のR&D組織であるSEMATECHやIMECは何社を起業させ、何千人の雇用を生んだ、ということを自慢する。台湾の工業技術院(ITRI)でさえもTSMCやUMCを起業させた。日本はいつまでも税金に頼る方法ではなく自律的に資金を回せる方法へと移行しない限り、競争力は付かない。10年以上前、半導体の国家プロジェクトを始める時の記者会見で当事者たちに、これでどうして競争力が付くのですか、と質問したら手厳しい質問をしますね、と言ったきり、明確な回答は得られなかった。

半導体研究の場合、応用という出口を霞が関は求めるが、企業の研究者にこれを求めるのは無理だ。顧客の元にヒアリングに行ったことがないからだ。一般的に言われている展望や、鉛筆ナメナメの市場調査会社の予測を利用することしかできない。出口を求めるのではなく、雇用を生み出す仕組みを作るべきである。米国のシリコンバレーから続々、GaN-on-Siのベンチャーが生まれてきて、競争力のある製品を生み出す仕組みを今や、欧州や英国が真似し出している。台湾やシンガポールはずっと以前から真似してきた。日本は「日本的ではない」とか何とかの理由を付けて、これまではやってこなかった。いつまでもこのままで良いのだろうか。失われた10年がいつの間にか20年になり、このまま行くと30年、40年になってそのまま一人沈んでいく。

起業するための仕掛けとして、VCとの出会いの場とベンチャー企業とのミーティングがまず必要。次に日本のVCには技術の目利きがいないためVCコンソシアムのようなグループを作り目利きを共有するとか目利きを活用することも必要だろう。ベンチャー企業に対しても支援の手を差し伸べることが必要だろう。例えば、経営に不安な起業家はベンチャーキャピタルからも取締役として経営陣に加わってもらえばよいだろうし、CEOとして外部から半導体経営のベテランを呼び寄せる手もある。四半期ごとの財務をきちんと管理し、利益の出る構造と仕組み作りを手伝ってもらえばよい。また製品戦略にもベテランの知恵を借りるとよい。成功させるためのさまざまなやり方がある。

参考資料
1. GaN-on-Siのベンチャー続出、白色LED・パワーHEMTを狙いVCも活発に投資 (2011/08/17)

(2011/09/06)

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