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営業利益率を30%以下には落とさない、技術経営の神髄に触れた

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先日、3年ぶりに米国リニアテクノロジーの創業者兼取締役会会長のロバート・スワンソン氏にお会いした。スワンソン氏に初めて会ったのが1990年代前半だった。当時、日本法人ができていたそうだが、なぜかホテルで会見した。それも朝7時半から朝食をとりながらの会見だった。日本人記者で彼に取材したのはおそらく私が初めてだっただろう。当時関わっていたNikkei Electronics Asiaにその時のインタビューを記事化した。

その後、2006年にEDNに係わっていた人間として、シリコンバレー内のミルピータス市の本社で2度目のインタビューをした。EDNが創刊50周年を迎えEDN Japanの特別記念号としてその内容を取りこむためである。この時に極めて深い印象を持った。それは1981年当時のエレクトロニクス技術はまさに、これからデジタル時代が始まる、という時代であり、日経エレクトロニクスにおいても「デジタルエレクトロニクス」という言葉を聞かない日はないほどだった。このような中で、アナログ専門のリニアテクノロジーを創業したのだ。

なぜアナログか。彼には成功するという確信があった。それは、デジタルはあくまでも論理回路でしかなく人間とのインターフェースはアナログしかないから、必ず生き残ると信じていたからだ。時代はアナログからデジタルへ移行しようとも、アナログでしかできないインターフェースをしっかり握った。それもアンプやコンパレータといった「平凡なアナログ」ではなく、簡単には作れないような高精度あるいは高性能、高機能といった半導体回路を設計した。誰でも簡単に参入できないようにバリヤを高くするためだ。価値を創造するのである。

半導体経営者として、技術の動向や製品の市場性、コア技術の開発、といったテクノロジーの視点だけではなく、キャッシュフロー経営を最優先してきた。技術も経営もわかる稀有な人だ。2006年にはビジネスウィーク誌において、営業利益率が40%を超える優良企業として、当時マイクロソフトやグーグルなどの先端ハイテク企業を押しのけて、ハイテク関係の優良企業のトップ第5位にランクされた。驚くことに、2008年~2009年の経済金融不況の真っただ中でさえ、営業利益率は30%を下回らない。

スワンソン氏は数年前までCEO(最高経営責任者)を務めていた。現在は、ローサー・マイヤー氏にCEOを譲っており、マイヤー社長も営業利益率をしっかり確保し、さらに製品の価値を常に上げることに心を砕く。日本では、MOT(Management of Technology:技術経営)などという言葉が大上段に使われ大学などで語られているが、残念ながらスワンソン氏ほど技術と経営の両方に長けている経営者を日本の半導体企業で見たことがない。

1981年創業のリニアテクノロジーは来年創業30周年を迎える。30年続き、さらに成長していく方針を掲げている。アナログ技術をこの先どうやって発展させていくのか。今回、別件のアポがあり記者会見に遅れていったが、ランチパーティでそのコツを伺った。その中身は、エグゼクティブコラムで紹介するとして、リニアのしっかりと利益を生み出すという基本方針は今でもこれから先も変わらない。

しかし、技術戦略、ビジネス戦略は絶えず時代の要請に応じて変えていく。技術を見る眼を持つベテランエンジニアをとても大事にする。かれらシニアエンジニアこそがこれからの成長分野を見極められる「技術を見る眼」を持っているからだ。いわゆる「目利き」がとても重要だという認識である。これまでの日本の企業も政府も産業界も金融界も技術の目利きを大切にしてこなかったために、成長分野への参入は遅れビジネスチャンスを失い、技術を見分けられる人物を徴用せず、技術の眼から見たベンチャーへの投資はできず、その結果、競争力がつかなかったといえないこともない。目利きによる新成長分野への取り組みこそが日本の企業、産業が成長していく原動力になる。ここに勝ち組・負け組の境目があるように思えてならない。

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