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何を新興国で売るべきか、ヒントとなったシリコンラボの新製品

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中国やインドなど新興国に向けて、日本のメーカーは低コスト・低機能の製品を出せばよいと思っていないだろうか。こんな考えで韓国や台湾のメーカーに勝てるのだろうか。低機能だと誰でも容易に参入できる。米国の半導体メーカーが教えてくれたのは、高機能・高集積にして1チップソリューションにすることこそ、低コスト市場に向くという考えだ。

9月30日のテクノロジーコラムで紹介した、米国の中堅ファブレス半導体ベンチャーであるシリコンラボ社は、これまでローエンドではノイズ対策にフィルタやシールド部品が必要でなかなか普及してこなかったD級アンプのチップに4つのノイズ対策回路を集積し、プリント基板上でノイズ対策を打たなくても使えるというICチップを発売した。プリント基板上にこれまで搭載しなくてはならなかった部品が50〜60点要らなくなり、トータルコストが安くなるというもの。

ICのチップコストが少しくらい上がっても、ユーザーの作りたいD級アンプの回路コストが下がるのであれば、ボリュームゾーンに売れる、というのがシリコンラボの考えだ。

同じように、携帯電話機用の基本機能を例えば高周波とベースバンド、アンプなどを1チップに集積してしまえば、安く中国やインドに売れる、と数年前に言っていたのはテキサスインスツルメンツ社だった。基本機能を全て1チップに集積していれば高機能ではなくても普及版としての市場は大きい。半導体ICとしての集積度は高い。台湾MediaTekの携帯電話チップはまさにこの考えだ。

最初に紹介したシリコンラボのチップは、プリント基板回路の部品コストを下げるだけではない。機能も高い。3次元のサラウンドやアンプの音量を周波数によって一定にするイコライザや、圧縮など音質を豊かにする機能もデュアルコアDSPを集積することで実現している。つまり、機能も決して劣ってはいない。ここまで基本機能を充実しておけば、汎用的なオーディオ製品をほぼカバーできるだろうと考えたのである。

このチップを使ってAM/FMラジオを搭載した、携帯音楽プレーヤーのドッキングステーションを作ろうとすれば、設計できる開発ツールも3万円程度で提供している。発展途上国のエンジニアがこのツールを買い、iPodをはじめとする携帯音楽プレーヤー向けの小型ドッキングステーションを安く作り大量生産することが簡単にできる。半導体チップメーカーは量産すればするほどチップが売れる。しかもDSPのプログラムを誰でも使えるプルダウンメニューから選択して、欲しい機能を追加・削除・選択できるため、独自のドッキングステーション製品を設計することもできる。

半導体メーカーはユーザーにとって価値の高い製品を安く売ることで、ビッグヒットが狙えるという訳だ。安い=低機能という図式しか考えられなければ、いつまでたっても価格競争に終わり、収益は上がらない。システムコストを安くできるが、半導体チップは高い、という製品を探し見つけることこそ、半導体の勝ち組になれるパターンであろう。

そのためには、どこまで何をどう集積化すべきかという顧客の声を拾ってシリコン上に焼き付けることが求められる。大多数の顧客が求める回路を集約して高集積な1チップソリューションを見つければ、顧客にとってはシステムを安く構築できる。半導体メーカーにとっては他のメーカーが参入できないようにバリヤを高くすることで、高収益を享受できる。

そのためにはエンジニアは工場から飛び出して自ら顧客の元を訪れ、2〜3年後の製品のあるべき姿を一緒に議論し、その結果を工場にフィードバックすることが重要である。実際、40代後半から50代のシニアエンジニアが米国から日本やアジアに出張して現地のエンジニアと将来を議論しているという話を米国のエンジニアからよく聞く。

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