セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

半導体・オブ・ザ・イヤー受賞者から見える、脱「ムーアの法則」新時代

|

半導体産業新聞を発行している産業タイムズ社は、最新エレクトロニクス製品を開発するのにあたり最も貢献した半導体製品と設計環境/開発ツールを称えるため「半導体・オブ・ザ・イヤー」を毎年選定している。先週、その表彰式に出席させていただいた。最初の年が1994年だから今年で16回目になる。それまでは「LSI・オブ・ザ・イヤー」と呼んでいた。

グランプリは、「SiCパワーデバイス」で三菱電機が受賞、準グランプリは「セキュリティプロセッサ」の富士通マイクロエレクトロニクスと富士通LSIソリューションが受賞した。加えて、優秀賞は3社が受賞。それぞれ、超低消費電力の16ビットマイコンMSP430F5シリーズの日本テキサス・インスツルメンツ、紫外線LEDのナイトライド・セミコンダクター、10Mspsの16ビットA-Dコンバータのアナログ・デバイセズに決まった。


受賞企業たち 左からアナデバ、富士通グループ、三菱、日本TI、ナイトライド
受賞企業たち 左からアナデバ、富士通グループ、三菱、日本TI、ナイトライド


選考委員長である九州大学の安浦寛人教授によると、今年のキーワードはグリーンだという。いかに消費電力を下げるかという視点で選んだとしている。エネルギー問題を解決しようとするとパワー半導体やLED、太陽電池などの半導体も含ませる必要がある。となるとLSIだけに限らない方がよい、という議論があったようだ。このことは、トランジスタを多数集積したLSIだけの世界から、半導体デバイスがさまざまな分野へと広がっていることを表している。

半導体の価値はかつてムーアの法則にある通り、1チップ上に何個のトランジスタが載せられるかを競い合い、さまざまな集積回路を考案し、年率2倍というスピードでICの集積度は増していった。ムーアの法則は1つのシリコン上にトランジスタを何個載せて商用化できるか、という争いだった。だから、とてつもない勢いで集積度が高まり、半導体=LSIというような図式が出来上がった。

ところが、集積度が上がりすぎると複雑になりすぎプロセスも設計も複雑すぎて集積度向上のスピードがなまってきた。1965年当時の年率2倍(12カ月で2倍)から、18〜24カ月で2倍というスピードに、ムーアの法則を定義し直した。最近になり、集積度向上主義への疑問が投げかけられた。消費電力が増えすぎてしまったからである。デュアルコア設計にする直前のインテルのペンティアムチップは電力密度では原子炉に匹敵するとまで言われた。

システムLSIやマイコンなどプログラマブルデバイスでは、ソフトウエアの量が膨大になり、少しでも軽いプログラミング、コード効率の高いマイコンの開発へと、少ないソフトウエアで同じ機能を実現する、という方向も出てきた。同様にハード的にもできるだけ少ないトランジスタ数で同じ機能を実現するという動きも出てきた。いずれもムーアの法則に反する動きだ。こういった動きを称して、「ムーアの法則はもはや時代遅れ」というブログを2年前の2007年10月9日に書いた。当時は違和感を持つ読者もおられただろう。しかし、今では誰もが口にするようになり、ちっとも珍しいことではない。

集積度の大きなLSIよりも半導体と総称する方が時代に合っている。だから半導体・オブ・ザ・イヤーと名称を変えたのは極めて理にかなっている。しかも結晶シリコンだけではなく、化合物半導体であるLEDや、多結晶やアモルファスシリコン半導体を使った太陽電池(安いことだけを主眼にしたフォトダイオード)も半導体の仲間である。

今回の受賞者の顔ぶれを見ると、純粋なデジタルLSIといえるのは富士通のセキュリティプロセッサICしかない。A-D/D-Aコンバータを内蔵したTIのマイコンはミクストシグナルと言ってもいいくらいアナログ部分を含む。アナデバのA-Dコンバータはもちろんアナログであり、三菱のSiCショットキーダイオードとMOSFETは立派なアナログ半導体である。ナイトライドのUV-LEDも使い方はアナログ。ムーアの法則にぴったり合ったデジタルLSIは富士通のチップだけというのが、今回の特徴だった。

つまり、時代は集積度一辺倒の半導体ではなくなったということであり、ムーアの法則はここでは受賞の対象にならないことがはっきりした。

月別アーカイブ