Semiconductor Portal

HOME » ブログ » 津田建二の取材手帳

ムーアの法則は、もはや時代遅れ

一昨年ほど前からMore than Mooreだの、No More Mooreだのと言われている。いずれの言葉も英語のしゃれである。英語ではMoreもMooreもモーアと発音するため、モーアを2回繰り返す言葉のしゃれとなっている。

Mooreの法則それ自体に今、本当に意味があるだろうか。考えてみたい。そもそもムーアの法則は、1965年ごろ米Fairchild Semiconductor社にいたGordon Moore氏がICチップの集積度が毎年上がっていく様子をプロットしてみると、どうやら18ヶ月で2倍のペースでトランジスタ数が増えていることがわかった。これをIEEEのSpectrum誌という学会誌に投稿し、掲載された。

当時の集積回路は、個別のトランジスタで組んでいた回路を半導体シリコン上で作ることを念頭において開発された。シリコン半導体にトランジスタを簡単に形成でき、トランジスタの数を増やせることがわかってきた。1チップ上に搭載するトランジスタの数が毎年増えていくことに意味があった。だから、18ヶ月で2倍というペースで増えていった。このLSIは何万、何百万トランジスタを集積していると、トランジスタ数を自慢する発表が多かった。

その後、Intelによるマイクロプロセッサとメモリーの発明と、コンピュータの進展が、デジタル革命を引き起こした。アナログではなくデジタルでさまざまな機能を実現できることがはっきりしてきた。このためトランジスタ数は指数関数的に増えていった。

時代は流れ、21世紀に入った今、わが社のLSIには数億トランジスタを搭載していると自慢する企業はもはやなくなった。1チップ上に搭載するトランジスタ数はもはや意味がなくなってきたのである。消費電力の問題や搭載する組み込みソフトウエアが増大する問題などが出てきたためだ。実際、LSIは性能が何MIPSだの、消費電力はこれだけ小さいだの、賢いアルゴリズムを考え出したので何行しか書かなくてすむソフトで動くチップだの、自慢すべきLSIの性能指数として、もはやトランジスタ数は含まれなくなった。

なぜARMのプロセッサIPが世界中で何億個というチップに入るようになったのか。少ないトランジスタ数で性能を上げながら消費電力を下げ、少ない行数のソフトウエアで動く、小さなIPだからである。小さなIPは安いIPと同じこと。つまり、性能がそこそこ高く消費電力は低く、ソフトは軽く、チップは安い、とくれば誰でも使うのは当り前だろう。ARMはトランジスタ数をむしろ減らす方向で性能・機能を高め消費電力は下げてきた。チップを高機能化する場合でさえ、できるだけトランジスタ数を増やさずに実現することを心掛けてきた。すでにムーアの法則に反することを十数年も前からやってきたといえる。

かつてメモリーのようにビット容量が少なすぎて何チップも並べて使っていた時代はトランジスタ数や集積度を競い合った。もちろん今でもDRAMやフラッシュを8個単位(バイト単位)で並べるメモリーモジュールは健在だ。今だに集積度が重要なパラメータになっている。

しかし、ロジックやアナログLSI、SoCなどはトランジスタ数のような集積度自体には意味があまりない。むしろ何ができるという機能、性能、消費電力に意味がある。例えば、最近米国ベンチャーのQuellan社が出してきたアナログ・デジタルミックスのノイズキャンセラチップは、1辺がわずか1mmにも満たない。デジタルのDSPで同じ機能を実現するとすれば数mm角の面積が必要になる。トランジスタ数は極めて大きくなる。これに対してQuellanのアナログチップは少ないトランジスタで同等な機能を実現している。

では、どのようなパラメータで時代を表せばよいのか。LSIの性能はまだしも、機能や消費電力、賢いソフトウエアをどのように表せばよいのだろうか。このLSIの発展を表す指標を新たに作り出す必要があろう。

微細化ノードは確かに搭載する機能と関係している。90nmから65nmノードの製品を作るようになり、さらに45nmへと進もうとしている。しかし、微細化には膨大な資金がかかるようになり、これからの半導体LSIは、微細化ノードではなく、賢いソフトウエアや低い消費電力を自慢するわけだが、それをどのような指標で表せばよいのか。消費電力は性能当たりの電力やエネルギー、機能当たりの電力などで表せる。しかし、問題はソフトウエアだ。プログラム行数は少なくて機能を増やす表現が求められるだろう。


津田建二

ご意見・ご感想