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「半導体も省エネ」は間違い、半導体こそが省エネ推進の原動力と認識すべき

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6月18日の日本経済新聞に載った「半導体も省エネ」という記事のタイトルに強い違和感を持った。記事の内容は、半導体も消費電力を減らして省エネに貢献しているというトーンだ。「えっ?」と思った。半導体こそが省エネを推進してきたエンジン、心臓ではないか。新聞記者は何もわかっていないのではないか。セミコンポータルの読者の方は、どのように感じられただろうか。

省エネを推進するインバータなり、携帯機器を電池で動作させるようにしたり、IT機器の消費電力を減らしたり、どのような電子機器でもすべて、半導体が電子機器の省エネを達成するカギを担ってきたことは半導体関係者なら誰でも知っている常識である。この常識が新聞関係者には通じないらしい。

新聞社によるが、記事を書く新聞記者が見出しまでつけるわけでは必ずしもない。校正部あるいは校閲部と呼ばれる部署や、原稿をチェックするデスクと呼ばれる先輩記者がつけることが多い。記者が無知だったわけではないかもしれない。しかし、このような間違ったタイトルを付けた新聞社の常識を私は疑った。

1970年代のころから日本は時計や電卓用の半導体で消費電力を削減する技術に注力してきた。シリコンゲートの前世代の技術であったAlゲートでCMOSにして、時計用ICの消費電力を削ってきた。省エネ、消費電力の削減は半導体メーカーの得意中の得意である。電卓用のICもかつては作りやすいpMOSから消費電力の削減を狙ってCMOSに替わった。コンピュータ用のゲートアレイチップもバイポーラから消費電力の低いCMOSへ変わった。

筆者は日経エレクトロニクス時代の1980年代前半、「すべての半導体ICはCMOSになる」という特集を組んだ。Mooreの法則どおりに集積度を上げていくと当時主流のnMOS技術では消費電力が増大し、ICとしては納得のいく価格でチップを提供できなくなる。ISSCCやIEDMなどの米国の学会ではその兆候が出ていたため、特集のタイトルのように予測した。その予測を裏付けるため、日本、海外のメジャーな半導体メーカーを取材し、確認した。当時においてもすでに時計や電卓用はCMOSに替わっており、メモリーやマイクロプロセッサでさえもが消費電力の低いCMOSに替ってしまうと予測した。もはやバイポーラはすたれていく一方になるだろうとした。結果はその通りになった。

日本から始まったCMOS化の動きは海外の半導体メーカーにも多大な影響を及ぼした。これまでバイポーラ一筋で作ってきたアナログICでさえもがCMOSに替わってしまった。もちろん、CMOS技術がバラつき少なく作れるようになっていたという背景もある。しかし、海外メーカーもnMOSからCMOSへ、バイポーラからCMOSへと替わり、消費電力の削減を意識せざるをえなくなっていった。全世界の半導体メーカーがCMOSにして消費電力を削減するようになった。

日本の半導体は半導体自身の消費電力削減だけではなく、コンピュータやテレビなどの電子機器の消費電力も削減してきた。エアコンや冷蔵庫などにはインバータ方式の採用によって省エネ化を達成した。インバータの心臓部は半導体である。過去の歴史から、半導体が省エネの中心的役割を担ってきたことがわかる。

ただし、最近はこれまでのCMOS回路技術、プロセス技術だけで消費電力を下げることには限りがあり、システム的な考えを導入するとさらに消費電力を下げられることもはっきりしてきた。これこそ、システム半導体、すなわちSoCのシステム的観点から見た低消費電力技術となる。

もっと温かい目で新聞社を見ると、半導体=ICチップという意識でみていたのかもしれない。将来性の高いLEDも半導体であるし、太陽電池も半導体フォトダイオードである。白物家電や電車、動力機器の省エネ化をインバータ方式にしたものにはすべてパワー半導体が使われている。数1000V、数100Aという大電力のインバータ機器でスイッチングする部品はサイリスタやIGBTなどのシリコン半導体である。電気プラグにさして使う機器には100%半導体が使われている。リチウムイオン電池は半導体ICで制御する。ロボットは半導体の塊であるし、自動車にも半導体シリコンがますます増えていく。航空機には信頼性の高い半導体がたくさん使われているし、これまであまり使われていなかった医療、農業、流通などの分野にも半導体がますます使われていく。こういった認識が新聞記者だけではなくもっと一般的な人にもなかったのかもしれない。結局、自省を込めて半導体の重要性をもっともっと伝えていかなければダメだと思う。

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