セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

ソフトウエア無線を可能にする広帯域RF CMOSチップ量産に入ったElonics

|

ワイヤレス技術がこれからのキラーアプリに使われていくことを見越して、英国スコットランドのファブレス半導体ベンチャーElonicsがさまざまな無線方式に対応できるように、64MHzから1675MHzまでをカバーする広帯域のRF CMOSチューナーE4000をサンプル出荷しているが、このほど量産に入った。Elonicsは同じスコットランドにある先輩企業であるWolfson MicroelectronicsにいたDavid Srodzinski氏が設立、CEOを務めている。Wolfsonの創立者David Milne氏も出資者の一人である。

ElonicsのRF CMOSチューナーのメリットは低消費電力であること。広帯域ながら100mWしか消費しない。しかも単純構造のCMOSを採用している。CMOSは微細化しやすいため、高周波特性もいい。


ElonicsのRF CMOSチューナー


ワイヤレス技術を利用する応用は広い。地上波デジタル放送でも、日本はISDB-Tのフルセグ、欧州ではDVB-T(据え置きテレビ)やDVB-H(携帯テレビ)、韓国はT-DMB方式、米国はATSC方式、中国はDMB-T方式と方式はさまざまなので、どの国のテレビにも使えるように広帯域あるいはフレキシブルなチューナーで対応しなければならない。E4000のように64~1675MHzという広帯域なRFチップだと、ソフトウエア無線(software defined radio)にも対応できる。ソフトウエア無線は、いろいろな方式の無線技術にソフトウエアを変えるだけで対応できる技術で、RF部分はいろいろな周波数にも対応できるように帯域を広げているとすべてカバーできる。しかもアンテナは1本だけですませている。

ベースバンドでのソフトウエア無線はDSPあるいはFPGAで実現する方法があるが、消費電力が大きくなりがちだ。せめてRF部分は低くしたい。E4000はIF段を不要にするゼロIFチューナーであり、強力なフィルタを使う。

信号はアンテナから入り、RFフィルタを通りLNA(低ノイズアンプ)を経て局部発振器からの信号を混合して周波数変換するわけだが、デジタル変調ではI/Qに分離する。IとQの信号についてフィルタを通したあと、A-Dコンバータでデジタルのベースバンドプロセッサへつなぐ。E4000はA-Dコンバータの手前までの回路を含んでいる。

E4000の大きな特徴であるゼロIF回路であるため、外付け部品が少なくて済む。「この設計回路では外付け部品は9個で済む。インダクタもバランもバラクタダイオードもいらない」、と同社マーケティング担当副社長のJulian Hayes氏はいう。局部発振器は水晶振動子からのパルスを周波数シンセザイザにより調整して作り出す。


Elonics社マーケティング担当副社長のJulian Hayes氏


このRFチューナーを使う場合には、ノイズの影響を避けるためデジタル復調器から遠ざけて、アンテナの近くに配置すべきだとしている。シングルRF入力だとアンテナをそのまま使えるため、アンテナの再利用に向く。また、いろいろな周波数をカバーするため、部品の在庫管理や品質管理の人員を増やさずにすむ。

Elonicsは標準品のファブレス企業である。ミクストシグナル技術を生かし、RF CMOSチューナーを設計した。アナログのRF回路では必ずしも微細化が良いわけではない。微細化が進むと電源電圧を下げざるを得なくなり、トランジスタのスピードがむしろ上がらなくなる。RFチップは現在の130nmプロセスが最適だとHayes氏は語る。ただし、デジタルのベースバンドチップは65nmへと微細化する。E4000のロードマップも計画しており、今後は機能を変えずに消費電力をさらに低減していく。

月別アーカイブ