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QuellanがRFノイズキャンセラの秘密を明らかに

米国の無線ノイズキャンセラチップの開発ベンチャーである、Quellan社はその動作原理についてその詳細をこのほど明らかにした。これまでは無線周波数(RF)でのノイズキャンセラというべきチップは存在せず、フーリエ変換などにより信号を強調することで信号を抽出する方法はあった。しかしDSPなどデジタル信号処理回路で構成するする必要があり、チップサイズは大きくならざるを得なかった。


このためコストは極めて高くなった。Quellanのノイズキャンセラチップはわずか1mm角程度と小さく、低コストにできるという利点がある。キャンセルできる量は15dB〜30dB程度である。

このチップは、携帯電話のように音声受信だけではなく、GPSやテレビ、Bluetooth、無線LAN、カメラ、液晶ディスプレイなどを搭載するような機器に向く。携帯電話の中にこれらの回路機能がすべて電波を発するEMIノイズ源になる。ベースバンドやアプリケーションプロセッサなどデジタル回路もクロックが電磁波の発生源になる。1台の機器の中にいろいろな電波の発生源が山のように存在する。設計を間違えるとテレビは映らなくなる恐れもある。

今回、同社が明らかにしたノイズキャンセルの手法は次のような考え方に基づく。まず、EMIノイズ源はランダムノイズではないという、これまでの常識を覆すような認識から始まる。時間軸で観測するRFキャリヤは、周波数軸で見ると連続波であるし、クロックは高調波、ジッターは位相ノイズ、パルス列のデータは広帯域ノイズ、RFからIFに変換する信号ミキシングはスプリアスなどになる。すべてランダムではなく、決まった波形の「ウソの信号」と見なすことができる。


QNx Principal of Operation

Overcoming Noise Using QNX System Description


そこで、「ウソの信号」をあえて拾ってその信号の逆位相をエミュレートし、本当の信号から「ウソの信号」を打ち消しあうことで、本当の信号を取り出すというもの。この「ウソの信号」はアンテナのような検出器で拾う。その逆相の「ウソの信号」をエミュレートするため、まず8ビットのA-Dコンバータでその波形を256点サンプリングする。デジタル化した後、デジタル変調方式のQAM変調のように振幅と位相それぞれにデジタル信号を割り当てる。最初に初期値(seed value)として仮定したバイナリ値を元に、高速バイナリアルゴリズムと呼ぶ方法で複素数が共役となるような(これが逆位相に近づく)最適なバイナリ値を求めるように11回繰り返し、位相をキャンセルできる最大の値まで近づけていく。結果的に「ウソの信号」を最大限打ち消すように繰り返すため、アダプティブ・ノイズキャンセラ技術と呼んでいる。

9ヶ月前に発売した同社のQNx100製品はチップサイズ1mm角だったが、このほどほぼ同じチップサイズで、LNA(ローノイズアンプ)とDAコンバータを2個搭載したノイズキャンセラチップQNx220を発表した。LNAを1チップに集積しておりパワーゲインが15~18dB高くとれるため、LNAを外付けする必要がない。適用周波数範囲は300MHz〜3GHzと広い。180nmのCMOSプロセスという成熟したプロセスで製造するため、コスト的にも無理がない。QNx220の消費電力は1.8V動作で20mW以下だという。チップは、ベアチップでもウェーハでも出荷できる。もちろん、CSPやQFNパッケージでの納入も可能で、RFモジュールに組み込んで使う用途が前提となる。


QNx220


実際にチップを使う場合には、多数の電磁波から出る「ウソの信号」を拾い、欲しい信号(テレビなど)に逆相信号を加えるための一種の帰還回路にチップを入れるため、挿入損失は伴う。このため、「ウソの信号」がないところで使う場合にはチップの出力信号をオフにしておく。

見込みのあるベンチャー企業として評価される第2段階の資金調達のフェーズに入ったと、Quellan社CEO兼会長のD. Tony Stelliga氏はいう。出資企業は明らかにしないが、顧客企業が含まれているとしている。すなわち、単なるファンドだけではなく、顧客もこの技術を有望視しているとみなせる。

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