実験条件を数十〜数百種類も同時に変えられるプロセス開発サービス
2004年に創立されたばかりの米国のベンチャー、Intermolecular社は、半導体プロセス開発に向け、1枚のウェーハで数十〜数百種類もの実験条件を同時に変えられる新しい実験装置を、コンサルティングサービスとともに売り出した。7月のSEMICON Westで発表されたこの装置の狙いは、新材料・プロセス開発期間の短縮にある。
半導体プロセスに使われる材料の種類は、2000年に入ってから急速に増えてきた。それまではシリコンになじみのあるAlやB、As、P、W、Ta、Tiなど限られた材料しか使われなかった。ごみを嫌う半導体工場にこれまでとは違う材料を持ち込むことを嫌うためである。しかし、もはやPtやHfなどこれまで使ってこなかった材料を持ち込まざるをえなくなってきた。トランジスタの要求性能を実現するためである。
しかし、異種の材料を半導体工場で使うためには、堆積方法や除去方法だけではなく、シリコンや酸化膜との親和性やプロセスの継承性などさまざまな項目を検討しなくてはならなくなってきた。ひとつの材料だけでも膨大な時間がかかることになる。
そこで、Intermolecular社が開発したのは、一度にたくさんの実験条件を変えて超並列的に実験できるシステムだ。実験の生産性を上げてさまざまな組み合わせを実現するため、この技術をHPC(high-productivity combinatorial:高生産性コンビナトリアル)技術と呼んでいる。これまで、バイオテクノロジや製薬業界、エネルギー業界などで培われてきた技術だという。材料技術とプロセス技術、プロセスの統合化、そしてデバイスの品質認定、という一連の開発の流れを一元管理できる。
同社が販売する装置は2種類あり、Tempus F-30は、1枚のウェーハ上で28種類の条件を変えられ、Tempus F-20は192〜576種類も変えられるという。装置そのものには、Tempus F-30なら28種類もの条件を変えられるように、直径が数cmの超ミニチャンバとスパッタリングターゲットを28個備えている。1枚のウェーハ上に超ミニチャンバを最大28個並べた形の装置である。下の写真は、28個の超ミニチャンバを使って評価したウェーハである。
実際に新しい材料を開発する場合は次のような手順で行う。材料の組み合わせを変えたり、組成条件を変えるなど、最適な材料の組み合わせを得るためにはウェーハ1枚当たり500種類以上を検討する。見込みのありそうな材料とその組み合わせを絞った後、今度はシリコンプロセスに適用してみて、堆積技術との親和性、除去速度や他の材料への影響など100数十種類のプロセス条件をわずか1枚のウェーハで検討してみる。ひとつのプロセスに適合できそうな条件をある程度絞り込めたら、実際のプロセスフローに当てはめてみて、その後のプロセスにも適用できるかどうかも含めて30種類程度のプロセスインテグレーションを評価する。材料、組み合わせ、プロセス条件などで所望のデバイス性能が得られることがわかった後、最後に量産プロセスに合うかどうかのチェックを行う。
事例として、45nm以降のプロセスに使われると見られる金属ゲートを検討するため、MOS構造での仕事関数やリーク電流を評価する場合、金属膜とHigh-k膜、界面キャップ層とのさまざまな組み合わせを1枚のウェーハで実験できる。PCRAMやMRAM、FeRAMなどの応用では、これまでの不揮発性メモリーでは使われてこなかった材料を検討できる。PCRAMには光に反応するカルコゲナイド系材料、FeRAMには強誘電体材料、MRAMには強磁性材料などが欠かせない。シリコンプロセスに適合し、デバイスの性能をも満足する新しい材料の組み合わせがこの装置を使えば簡単にできるようになるため、新しい不揮発性メモリーの開発が加速される可能性は高くなる。
Intermolecular社のビジネスモデルは、装置を単体で売るのではなく、まず材料やプロセスを共同開発し、同社の装置を使って材料評価の実験を行う。このときにコンサルティングサービスを行うが、試作段階ではさほど高額なコンサルティング料ではなく、量産になったときにロイヤルティをもらうというモデルだという。知的財産権のライセンシングも行う。