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医療用に絞り低電力8チャンネルA-DコンバータICで勝負するノルウェーのASD

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ノルウェーで2007年5月に生まれたばかりのベンチャーArctic Silicon Devices社が、これからのアナログシグナルチェーンを1チップに集積する戦略を進めている。もちろん、低消費電力が大前提だ。低消費電力のアナログとミクストシグナルを得意とするこのベンチャーは2008年8月にベンチャーキャピタル(VC)から420万ドルの第2回目資金を得た。「リーマンブラザースが破たんする2週間前に調達できたのでラッキーだった」と同社CEOのJohn Raaum氏は胸をなでおろす。

同社は、医療機器、特に画像を駆使するCTスキャナーやMRI、超音波診断装置など立体画像を描き出す医療機器に向けたミクストシグナルチップを開発している。この用途では多チャンネルのシグナルチェーンが必要になる。応用例として超音波診断装置の場合、3つの応用を考えている。一つの大きな病院に1台設置するような据え置き型、ノートパソコン並みの大きさの緊急用途(救急車に搭載)、医者個人が持つ携帯型の3つである。立体画像を形成するための回路はそれぞれの用途によって違う。携帯型は16チャンネル、ノートパソコン並みの装置には64〜128チャンネル、据え置き型には192〜512チャンネルのシグナルチェーンを導入する。

今回、同社が第2弾の新製品として発表したのが、8チャンネル分のシグナルチェーン集積回路。超音波センサーからの入力信号を処理するためにアンプ、フィルタ、A-Dコンバータを一つの組として8チャンネル分の回路と、8チャンネルの並列データをシリアルデータに変換するシリアライザを集積し、LVDS出力を持つ。診断装置は超音波トランスミッタ1台から発射された超音波信号を8つのセンサーで拾い、スキャンしていく。チャンネル数が多ければ多いほど装置は小型になる。

2008年に最初の製品を出した時は1および2チャンネル分のシグナルチェーンしか集積していなかった。サンプリング周波数80MSPS(サンプル/秒)で分解能12ビットのA-Dコンバータのデュアルチェーンでは、S/N比が72.4dBと大きく、消費電力は102mWと小さかったが、今回、20〜80MSPSで12ビットのA-Dコンバータを8チャンネル集積しているが、消費電力の削減をさらに進め、50MSPSで40mW/チャンネルと低減した。

消費電力を下げられたのは、多数のスイッチトキャパシタ回路のノイズと消費電流との関係式を求め、それぞれのスイッチトキャパシタに流れる電流がどの程度ノイズに寄与するのかを計算した。スイッチトキャパシタ1個だとノイズ電圧の自乗は電流に反比例するため、ノイズは電流が大きいほど下がる。この関係を最適化した。さらにこの方程式からデザインフローを求め、回路トポロジーを設計した。この技術は特許申請中だという。

消費電力は超音波を伝送するデューティ比に大きく依存する。超音波発生はパルス周期の75%をオン、25%をオフするが、8チャンネルの受信側は25%をオン、75%をオフにする。加えて、オンになる時の立ち上がり時間を0.5μsと高速にし、オン時のパルス幅を25%より増大しないように工夫した。立ち上がり時間が遅ければオン時の消費電力が増大してしまう。

A-Dコンバータ回路は、3ビットパイプラインの時分割多重方式を採用、スピードはフラッシュコンバータに近づけ、分解能は逐次比較方式に近づけている。


ミクストシグナルチップ


TSMCの0.18μmのCMOSプロセスで製作する。64ピンのQFNパッケージに収容し、サンプル出荷を始めたところ。量産は2009年第3四半期になる予定。同社は、さまざまなミクストシグナルメーカーから入社したベテランのエンジニアが多く、技術には絶大な自信があるとJohn Raaum氏はいう。


(2009/05/01 セミコンポータル編集室)

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