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英国特集2009・組み込みシステムを先導する専用プロセサの時代に(2)

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組み込みシステム時代のプロセッサはビジネス形態も技術も大きく変わる。その変貌の様子をさらに伝えていく。前回の例はマルチコアプロセッサの開発を楽にするためのツールであったが、今回はアプローチの異なるプロセッサの例を二つ紹介する。一つはエジンバラから、もう一つはケンブッジから生まれたプロセッサで、共にアーキテクチャがこれまで進んできた方法と違う。

ダイナミックに命令を変えられるSpiral Gatewayのアーキテクチャ
エジンバラ大学をスピンオフして設立したSpiral Gatewayは、携帯電話機に搭載されているカメラの性能を上げるための信号処理を手掛けるリコンフィギュラブルなプロセッサを開発した。C言語でプログラムでき、しかも画像処理するのに十分な150Gopsという性能を持っている。

これまで携帯カメラの信号処理回路はASICでなければリアルタイムに処理できなかった。しかし、データパスを変えることはできない上に、アルゴリズムを決めるまでに時間がかかる、新しい機能を追加できない、などの問題があった。これをDSPで実行してアルゴリズムを更新するという手はあるが、リアルタイム処理できず、またフレームバッファメモリも必要になる。

この新しいプロセッサRICA(Reconfigurable Instruction Cell Array)は命令セットを自由に変えられる画像処理プロセッサISP(image signal processor)である。RICAの中央には命令セットのセルが格子状に並べられ、それぞれを配線で結べるようになっている。命令セットがハードウエアとして直接つながり実行する。コンパイラはCコードをマッピングして、実行したい命令セットのセルを接続する「ネットリスト」を描くというわけだ。ネットリスト情報をアプリケーションごとに次々と蓄積しておき、プログラムの流れに従ってリアルタイムにコードを実行する。1個のセルには1個の命令を入れておく。ネットリスト情報をまとめてフラッシュメモリーなどプログラムメモリーに蓄えておけばいい。

こういった「ソフトワイヤード」のようなプロセッサが出来上がる。まるでASICのネットリストがオンデマンドで接続されていくので、リアルタイムに構成を変えられるという訳だ。ハードウエアへのマッピングは、次のようにする。すなわち、Cコードをアセンブリコードにコンパイルし、命令の順序をストアしているプログラムメモリーから取り出す。これだけだ(図4)。


RICAの基本構成とマッピング法
図4 RICAの基本構成とマッピング法


リアルタイムでネットリストを変え、データを高速処理するために、命令の流れをパイプラインとしてそれを3つに分け、グループごとに並列処理するというアーキテクチャを、例えばHDビデオを想定して使っている。つまり200万画素/フレームの画像を1秒間に30フレーム処理するとして、60M画素/秒の性能を想定している。計算能力としては150Gopsあるという。

デジカメに必要な機能をすべて、命令セットと、プログラムメモリーに貯めておけばリアルタイムで機能を次々と変えられる。HDビデオをとらえたり、ビューファインダーをのぞくモードをつけることもできる。プログラムメモリーをフラッシュにしておけばデジカメ機能(ソフトウエア)のアップグレードはごく簡単なうえ、同じシリコン上に別の製品を載せることもできる。

RICAプロセッサには最大600命令を同時に処理する超並列プロセッサを積んでいるようなものだ、と同社CEOのGraham Townsend氏は電話インタビューにおいてこのように述べた。このソフトウエアISPはカメラフォンの機能を自由に変えていろいろなモードが使えるようにできる。例えばビデオでのストリーミングモードを違うアルゴリズムで載せたり、あるいはフレームレートを変えたりすることができる。外付けのメモリーは512MビットのDDRあるいはDDR2があれば十分なのでコストは安くて済む。もちろん、さまざまな機能を拡張して、メモリーインターフェースを付けたり、ビデオコーデックを搭載したり、通信インターフェースを付けたり、することもできる。

ワイヤレス応用を狙った超低消費電力のプロセッサ

半導体技術からワイヤレス通信、センサー、制御技術を設計するファブレスのCambridge Consultants社は超低消費電力で通信を行う、NFCやZigBee、Bluetoothなどの応用を狙った16ビットXAP5プロセッサコアを開発した。これは、英国のエレクトロニクス産業の人脈作りに貢献するKTN(Knowledge Transfer Network)が主催した、Power Downセミナーにおいて発表したもの。今回の統一テーマは、New trends, technology & start-up opportunities in low power silicon & system design(低消費電力半導体とシステム設計における新しいトレンドと技術、ベンチャーのためのセミナー)である。

Cambridge社のプロセッサの応用には次のようなものがある。例えばLiボタン電池で10年間働き続ける応用では平均電流は1μA、単3乾電池で15年間働き続ける応用では平均電流は15μAがそれぞれ最大と見る設計をしなければならない。ここではそのような微弱な電流で動作するセンサーネットワークやアクチュエータを駆動するSoCやSiPに組み込むコアに使う。図5はSoCで使う例である。


XAP5コアをSoCに集積した例
図5 XAP5コアをSoCに集積した例


電力やガスのメーター検針を自動的に行う応用例では、データ送信は24時間に一回で、それ以外は、低いデューティレシオでデータを捕捉し蓄積しておく。この場合、大部分の時間はオフ状態にあり、データを捕捉するときだけ100μA程度流し、1日一回のデータ送信には20mAを流す。時間的にオフ状態が圧倒的に長いようにしておくため平均電流が1~10μAと低い動作が可能になる。電圧は1.2Vあるいは1.8Vにする。メモリーは応用にもよるが64KB(バイト)のRAM、1KBのROMなどを用意する。データを保持するRAMとしては不揮発性RAMでもよいし、あるいはRAMデータを保存するフラッシュを追加してもよい。ただし、ウェークアップ状態から素早く立ち上がれるようにレイテンシーの短い構成にする。

こういった応用に要求されるプロセッサとしては、少ないソフトウエアですむようにコード効率を高くすることが必要となる。コード/データはユーザー用と優先用とを分けておく。しかもOSや通信プロトコルスタック、ソフトウエアのアップグレードなどもサポートする必要がある。

今回開発したXAP5プロセッサコアは、メモリーアドレス空間のみ24ビットで最大16MBまでのメモリーを使えるようにしている点以外は、データ幅、レジスタ幅などは16ビットにする。130nmプロセスで作製したコアの面積は0.09 mm2以下、1万8000ゲート相当だという。ダイナミックな消費電力は27μW/MHzで、消費電力当たりの性能は25,000MIPS/W。

プロセサIPはVerilog RTLとしてソフトコアでライセンスする。Bluetoothで最大の市場シェアを握るCSR社はこのXAPアーキテクチャをとる。同社はCambridge Consultantsからスピンオフして設立された。ソフトウエアの開発環境とデバッグ環境もツールを用意しておりxIDEという名称で販売する。詳細は、同社ホームページのXAPプロセッサを参照。


(2009/04/06 セミコンポータル編集室)

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