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特集:英国株式会社 (7)USBでモニターに接続するためのチップを開発

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ディスプレイモニターやプロジェクタと、パソコンを従来のRGBコネクタではなく、ごく一般的なUSBコネクタでつなげられるようなUSBアダプタ(写真11)が街で手に入るようになってきた。このUSB-RGB変換アダプタの心臓部にある半導体チップは、英国ケンブリッジに拠点を置く創立5年目ベンチャー、Display Link社が設計したものであることを知っている人はどれほどいるだろうか。

アイ・オー・データ機器が販売しているUSBアダプタ
写真11 アイ・オー・データ機器が販売しているUSBアダプタ


このUSBアダプタは、あるIT関係の雑誌の記者がブログのなかで「最近買ってよかったもの」(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080314/296239/)と題して紹介している。Display Link社のチップは単なるUSB変換アダプタに使えるだけではない。コンピュータ画面に表示した複数の画面をそれぞれ別々のモニターで見たいという、IT関係者や金融関係者、システムエンジニアなどが抱いていた長年の夢も実現する。最大6台のモニターにデイジーチェーンでつなぎ、それぞれに1画面ごとに表現することができる。

同社のUSB-RGB変換チップDL-120/DL-160チップは、リアルタイムで他のモニターやプロジェクタに簡単に映し出せることが特徴である。例えばパソコンからRGBケーブルでプロジェクタに映し出す場合にパソコンごとにF5だのF10だのファンクションキーが違う場合が多く、設定が面倒くさい。このチップを使えば、ソフトウエアで自動的に判断するため、設定は何も要らない。対応できるディスプレイの解像度は、DL-120が1280×1024画素のSXGAまで、DL-160は1600×1200画素のUXGAまで可能だ。

このチップの応用は、USBアダプタやUSBモニター、USBドッキングステーションなどがある。ワイヤレスのモニターやプロジェクタも可能である。日本のアイ・オー・データ機器はこのチップを内蔵したUSBアダプタ(http://www.iodata.jp/prod/multimedia/ga/2007/usb-rgb/index.htm)を販売している。

USBドッキングステーションは面白い応用になるという。これまで、パソコンメーカーはノートパソコンのUSBドッキングステーションをモデルごとに作り分けているが、「このチップを使えば、共通のドッキングステーションができるようになる。企業内でこの共通ドッキングステーションを使えば、モデルに関係なく使えることができ、ITコストの削減にも有効だ」とDisplayLink社上級副社長のMichael Ledzion氏は語る。


DisplayLink社 上級副社長のMichael Ledzion氏

写真12  DisplayLink社 上級副社長のMichael Ledzion氏


2006年にこのチップをはじめて製品化した後、サムスン電子と東芝から注文がきた。東芝は2007年にノートパソコンの新モデルにドッキングステーションを発表、ソニーもこの1月にノートパソコンVAIOのドッキングステーションを発表している。このドッキングステーションでは例えばVAIOのユーザーはVGAあるいはDVIのディスプレイをUSB2.0端子に接続するだけでそのディスプレイを見ることができる。このドッキングステーションはWindows2000、XP、Vista Aeroをサポートしており、ソニーのパソコンであればどの機種でも使える。

一人で複数台のモニターを使う
最近の企業では一人のエンジニアやITマネジャーなどは2台のモニターを使うケースが増えてきた。モニターが安価になってきたからである。

ただし、デスクトップPCで使う場合の問題は二つある。一つは、ATI社やnVIDIA社のグラフィックスチップを載せたグラフィックスカードをVGA端子に差し、リスタートしなければ使えないため時間がかかる。1~2ユーザーで技術の分かる人が使う場合には問題ないが、もっと多くの人が使うにはもっと待たなければならない。もう一つはグラフィックスカードが高価なことである。40~100ポンドもする。

同社のチップを使うUSBディスプレイだと、パソコンにアプリケーションソフトをインストールしてしまえば、差し込むだけで済む。ハードウエア価格は高くならない。モニター側にはソフトウエアをフラッシュカードにインストールする。PCをつなぐとモニターを自動的に検出し、PCの画面を表示する。

2003年に設立された同社は、当初イーサーネット向けシンクライアントチップを最初に製品化したが、次にイーサーネットを使ったUSBチップを手掛けた。なぜUSBにフォーカスしたか。パソコンにはUSBが標準的なインターフェースとしてついているからである。ワイヤレスUSBへも簡単に移行できる。しかもデータレート480MbpsのUSB2.0は最近のパソコンには標準装備されるようになってきた。2006年1月のCESで今回のUSB-RGB変換チップDL-120/DL-160チップを発表、2006年12月に製品化した。

DisplayLinkのビジネスモデルは、チップとソフトウエアを売ることである。もちろん、開発キットも用意する。現在の従業員は英国に65名、世界全体で85名いる。ほとんどの研究開発はこのケンブリッジで行っている。会社そのものはまだ上場前のプライベート企業で、ベンチャーキャピタルからの支援を受けて設立した。競合というべき企業はまだ少ない。

USBでモニターやプロジェクタをつなぐ時の問題は、二つあった。一つは圧縮方法で、これはCPUのバンド幅とUSBバンド幅の違いがあるため。USBでは基本的に圧縮しない。CPU側で緩い圧縮をかけ、しかも圧縮率を場面によって変えるというアダプティブ圧縮方式を開発した。この方法を使えば、ワイヤレスUSBやWiFi(ワイヤレスイーサーネット)にも適用できるという。

もう一つはOSを集積することで、実はこれが大きな問題だった。特にWindows Vistaのディスプレイでは、3Dでメニューを出す場合に半透明な部分がある。当社のチップはただ単にプラグインでつなぐだけで画面が出るが、他社のチップはこうはいかない。このためにチップにはグラフィックスカードの機能を積み込むような高集積な回路が求められる。ここに2名のエンジニアが取りかかった。その結果、ハードウエアレンダリングエンジン(HRE)技術とバーチャルグラフィックスカードソフトウエアを開発した。32ビットのフルカラーグラフィックスをサポートしている。

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