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半導体チップが言葉の不自由な人を救う

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先週は、プラズマパネル事業からパイオニアが撤退を決め、携帯事業では三菱電機が撤退することを表明という、業界再編が活発になってきたニュースが目立った。3月10日の日本経済新聞朝刊のトップ記事でもソニーがNTTドコモ向けの携帯電話事業から撤退するという記事が掲載された。しかし最大の感動ニュースは障害者に福音となる半導体だった。

先週のニュースの中で、最も大きな衝撃を受けたニュースは、声を出せない障害者が携帯電話で話ができるという技術Audeoである(http://focus.ti.com/docs/pr/pressrelease.jhtml?prelId=sc08029)。トラウマ性精神障害や脳性麻痺などの神経障害により言葉を話せなくなった人にとって朗報である。米Texas Instruments社が主催するTIDC(TI Developers Conference)において、この技術を開発したAmbient社のCEO、マイケル・カラハン氏が壇上に登場し、この音声なし通信技術をデモンストレーションした(ビデオはwww.ti.com/tidc08multimediaにおいて視聴可能)。

カラハン氏がTIの司会者に携帯電話をかけ、司会者がカラハン氏に話しかけると、カラハン氏は全く言葉を話さないまま、2〜3秒後に合成音で答える、というデモンストレーションだ。応答には2~3秒かかるという難点はまだあるが、このようなデバイスができたことが素晴らしい。カラハン氏の首には黒い帯が巻かれており、その帯の内側にセンサーが貼ってある。このセンサーが脳から声帯に送られる神経信号を拾う。この神経信号をA-D変換し、DSPを使って合成音声に変換する。TIの低消費電力マイコンMSP430を使っており、電話としては1回の充電で8時間は話ができるという。インターネットでこのビデオを見ると、感動するような医療機器が半導体チップで実現できることに感動する。

業界再編に関する記事は新聞で数多く見られるので、ここではあえてコメントしないが、業界再編ニュースはディスプレイや携帯電話だけではなく、DRAMでも進むだろう。3月4日のニュースでは米Micron Technologyと台湾の南亜科技が50nm以下のDRAMを共同開発することを発表している。南亜はドイツのQimondaとも提携しているが、Qimondaが最近苦戦を強いられていることから、二股をかけて様子見ではないかと想像する。

先々週のニュース解説でもお伝えしたが、IntelとAMDの将来に向けた動きが鮮明になっていることが先週のニュースでも再認識できる。IntelはUMPC(ウルトラモバイルパソコン)やMID(モバイルインターネットデバイス)に向けた新しいプロセッサチップAtomを発表した。45nmプロセスを使うAtomシリーズは11品種あり、チップ面積は25mm2で、それぞれ4700万トランジスタを集積している。今年の中ごろの出荷を目指している。

松下電器産業は、このAtomプロセッサを使ったUMPCを今秋発売すると発表している。重さは1kg以下で手のひらに載せて使え、価格は20万円台後半を想定しているそうである。

IntelのライバルであったAMDは、ハイエンド志向を強め、サーバーやデスクトップ向けに45nmプロセスのクワッドコアプロセッサを発表している。複数のOSで走る仮想化技術を使う用途を狙っている。液浸リソグラフィと歪みシリコン技術で形成した。

AMDはさらに先端的なリソ技術のEUV(極紫外)リソを使ったテストチップをIBMと共同で試作したとも発表している。この試作チップは、第一層目のメタルの加工に使う。デザインルールは45nmだが、従来の狭い領域での照射ではなく、22mm×33mmのフルフィールドでの照射であり、実用化へ一歩前進したといえる。

最後に、環境対策の話題にも触れよう。東芝がCO2ガスを2012年までに730万トン削減する目標を定めた。半導体工場には、PFCガスをフッ化カルシウムに固定化変換してしまう技術を導入することを発表している。PFCガスは、オゾンホールを広げるCFCの代替ガスであるが、CO2排出量が大きいため、問題になっていたとされる。


分析:津田建二

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