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東芝のアグレッシブな設備投資、新時代の予感

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年末から年始にかけてのビッグニュースは、何といっても原油の値上げであろう。1バーレルが100ドルにもなった。原油に大きく依存しているものづくり産業は、原油価格によって大きなダメージを受ける。各種の化学品は言うまでもなく、半導体工場を動かす電力はきわめて大きい。これからは、原油に頼らないエネルギーとしての太陽電池や、バイオエタノール、バイオディーゼルなどの新しい燃料の開発ニュースが今年は増えていくだろう。

ただし、世界的には石油産油国が価格を決める主導権を持ち、欧米が大量に原油を購入しているという構図があるため、ドルもユーロも安くなった。おかげで円はむしろ108円と高めに推移しているため、原油値上げは日本経済を直撃してはいない。これが、もし円までも安くなったら、日本経済への打撃は計り知れなかった。日本のGDPの2/3は消費部門だからである。つまり輸入によって消費している経済の効果が今の日本は極めて大きい。長期的に日本は世界的な評価がどんどん下がり続けているため、円安基調にはある。

半導体産業に絞ってニュースを上げると、12月29日土曜日の日本経済新聞1面トップに掲載された「東芝 増産投資1.4兆円」という記事がビッグニュースだろう。東芝がアグレッシブに選択と集中を進める姿には感動すら覚える。これまで、「大企業では選択と集中はできない」という言葉を国内大手企業の経営陣から何度となく聞かされてきた。シャープが液晶に集中する姿勢に関しては、「シャープだからできる。われわれのような大手にはできない」と絶えず言い訳してきた。東芝という大手企業が西田社長の下、選択と集中をアグレッシブに進めているのである。「他社だからできる」というような言い訳をいつまでも続けていては何もできない。

東芝はNANDフラッシュメモリーの生産能力を2009年度から5年かけて4倍に上げていくという。ストレージに使うNANDフラッシュは、メモリーがいくらあっても足りないほどの容量が求められている。音楽だけではなく、動画映像、それもHD(ハイディフィニション)、さらにフルHDと高精細が進むため、ストレージのメモリー不足は明らかだ。

これがDRAMとなると事情は全く違う。パソコンや組み込みシステムなどのプロセッサシステムで使うDRAMでは、大きな容量はもうあまり必要がない。32ビットシステムの仮想メモリー空間は2の32乗、すなわち4Gビットである。スーパーコンピュータのような64ビットシステムでは2の64乗だから、テラ(T)、ペタ(P)を超え、さらに上の単位へ行くためメモリーの大容量化は必須だが、32ビットシステムを使う限り、1Gビットもあれば十分になる。MCP(マルチチップモジュール)やモジュール技術がユーザーの声に十分応えられるからだ。プロセッサのシステム側からは、これまでの32ビット命令をもっと簡素な16ビット命令にして処理速度を上げたり、消費電力を削減したりするといった動きがある。

HDやビデオなどの応用となると、むしろ大容量のデータを大量に処理するために大容量化よりももっと広いバンド幅が必要になる。DDR(ダブルデータレート)からDDR2、さらにDDR3、あるいはランバス、といった高速化は、映像やそのHD化と関係が強まる。ただし、フルHDディスプレイは、大画面テレビやDVDシステムなど、半導体メモリーの設置場所には十分な余裕があるため、1Gビットを大量に使える。携帯電話だとスクリーンは小さい上、小型化と低消費電力化が至上命題であるから、DRAMの大容量化への速度はそれほど早くない。

しかし、NANDフラッシュのようなストレージのメモリー容量はめいっぱい欲しい。あればあるだけ、好きな音楽やビデオ、それもできるだけ鮮明なビデオが欲しくなるのは人間の性(さが)である。だからこそ、東芝のNANDフラッシュへのアグレッシブな投資はreasonableでありmake senseだといえよう。

携帯電話のプログラムメモリーとして使われてきたNORフラッシュを米Intelと欧州STMicroelectronicsが資金を出し合って新会社を設立するという話が、延期になったというニュースもあった。米国のサブプライムローン問題でファンド企業が資金不足に陥り、必要な資金を調達できなかったのが延期の理由だという。米国から始まったサブプライム問題は半導体業界にも影響を及ぼしつつある。

半導体の設備投資全体の動きとしては、昨年投資をリードしてきた台湾の大手ファウンドリ2社、TSMCとUMCが2008年の設備投資額は2007年より低くなると見ている。SEMIも2008年の設備投資は下がると見ている。このような中での東芝のアグレッシブな決断に対して、成功するだろうとは思うものの、成功して欲しいと願う。大手企業が選択と集中を進める姿から、国内半導体は新時代に入ってきた、と感じる。

分析:津田建二

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