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エルピーダは日本の製造業のキモ、憶測・決算発表・資本増強について整理する

先週も各社の決算発表が続く中、半導体産業にとって最大の関心事はエルピーダメモリの行方だろう。2月7日の日本経済新聞では、2月6日に行われたエルピーダメモリの決算発表と坂本幸雄代表取締役社長のコメントを元に、資本増強について解説している。2月6日夜のテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」でも坂本社長のコメントが生のまま伝えられており、ここで少し整理してみたい。

エルピーダメモリの坂本幸雄代表取締役社長


エルピーダメモリが6日に発表した2008年第3四半期の純損失は、723億円とここ最近の最悪となった。2008年度の4月から12月までの連結決算は累計で最終損益が1180億円の赤字になった。このような巨額の損失は、メモリー価格の非常識な下落が最大の要因で、エルピーダだけがまずいのではなく、世界中のすべてのDRAMメーカーの業績が悪い。DRAM第5位のキモンダが経営破たんを申請したことは記憶に新しい。

エルピーダはもはや、つなぎ融資ではなく、資本に組み込まなければ財務数字は良くならない、と坂本社長は判断した。そこで何らかの資本を注入することを検討し始めている。ひと月ほど前、産業を再生するために、政府は日本政策銀行を通じて資本注入を行うことを表明した。そのための法案をこれから審議する。このニュースに即応する形で、エルピーダがこの仕組みを利用して400~450億円の公的資金を要請、とのニュースが日経新聞に流れた。しかし、エルピーダの広報室はこれを否定しており、「400~450億円は公的資金の要請額ではなく、複数の取引先さまへの出資の検討をお願いしている額」というニュースリリースのファックスを2月6日の夜10時11分に流してきた。

一方、エルピーダは台湾のPowerchip Semiconductor社、その合弁会社であるRexchip社に加え、中堅のDRAMメーカーProMOS社と4社の統合事業についても協議を続けている。台湾政府はDRAM企業に公的資金を提供する旨を伝えており、統合することでエルピーダの資本体力の増強につながる。

これら一連の動きをまとめてみると、エルピーダは3つの選択肢を用意している;1)取引先からの出資、2)台湾政府からの出資、3)日本政策銀行からの出資、である。これらの選択肢のうち、どれを採用するのか全く決まっていない。重要なことはスピードである。これだけの金額を即座に用意できる取引先は限られる。台湾政府の動きはどのような統合形態によるのかによって決まり、最悪の場合エルピーダには出資しないかもしれない。そして日本政府の動きはというと、これまで速かったためしがないから、最も期待薄かもしれない。いずれの3つの選択肢とも極めて厳しいため、有力な決定打は今のところない。

ただ、早く「こと」を決めなければエルピーダが危ない。キモンダは公的資金の注入に際して政府がぐずぐずしていたため、存続に間に合わなかった。日本で唯一のDRAMメーカーであるエルピーダをつぶしてはならない。無限に存在するDRAMユーザー(ほとんどのモノづくりメーカー)が日本のメーカーからDRAMを購入できないという事態に陥ると、韓国メーカーをはじめとする海外メーカーは日本のDRAMユーザーに正常な価格で売らない可能性がある。事実、1990年代半ばの台湾のパソコンメーカーは、日本と韓国を含む海外DRAMメーカーからメモリー調達を渋られた、という苦い経験を持つ。

だから、エルピーダを短期的な資金不足というだけでつぶしてはならないのである。結局損をするのは、日本のモノづくりメーカーなのだから。DRAMを使うユーザーは様々な業種に広がっている。10年前はコンピュータメーカーが主だったが、今や国内のパソコンメーカー、家電メーカー、携帯電話メーカー、産業用機器メーカー、通信機器メーカー、計測器メーカー、宇宙航空機メーカー、医用機器メーカー、ほとんどすべての製造企業がDRAMを使っている。こういった日本のモノづくりそのものの根底を揺るがすようなことは絶対に避けなければならない。

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