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サーバー市場が好調、マルチコア利用でグリーンコンピュータ開発が活発に

このところ、このコラムで取り上げるニュースの大半が消費電力を下げる、あるいは消費電力がもともと小さいデバイス、といった記事が多かった。太陽電池、LED照明などがそれだ。先週は、サーバー市場の出荷実績に関する調査が2件発表された。1件はガートナー社の世界市場であり、もう1件はIDCジャパンがまとめた国内市場向けのサーバーの出荷額である。世界では新しいサーバー市場に参入してきた企業が現れている。

経済産業省が推進するグリーンITプロジェクト。大義としてはIT機器の環境負荷を減らそうとする経産省のプロジェクトであるが、RoHSやREACHなど環境にやさしい材料を使おうとするこれまでの動きではなく、CO2削減、特にIT機器世界中のデータセンターやサーバーが発する熱、すなわちサーバーの消費電力を削減しようと呼び掛けている。ただ、サーバーをはじめとする電子機器の低消費電力化の動きは何も今始まったことではない。世界中が環境に関心を持ち消費電力を減らす動きを見せている。

米市場調査会社のガートナー社は、最近の景気後退の最中であるのにもかかわらず、サーバー市場は着実に成長していると報告している。2008年第2四半期におけるサーバーの出荷台数は前年同期比で12%増の230万台、出荷額は同5.7%増の138億ドルになったという。IDCジャパンによると、第2四半期における国内市場でのサーバー出荷額は前年同期比で3.7%増の1346億円、出荷台数は同10.3%の13万3000台であった。国内では企業向け需要というよりは研究機関の科学技術計算用のサーバーが好調だったとしている。国内出荷額は2四半期ぶりのプラス成長だという。これに対して世界的にはx86アーキテクチャのサーバーへのアップグレードが牽引し、ウェッブデータセンターの設置増が伸びに大きく貢献したとみている。

そのような中、H-P、デル、IBM、サンといった従来のサーバーメーカーに対して、オングストローム・マイクロシステム社(Angstrom Microsystems Corp)がサーバー市場に参入してきており、消費電力の少ないグリーンコンピュータを売り物にしている。技術的にハードはAMDのクワッドコアプロセッサOpteronをベースにし、ソフトウエアでも独自のアクセラレーションライブラリを充実させ、差異化を図っているという。

今やサーバー市場の老舗となったサンマイクロシステムズ社は、インテル社の64ビットマイクロプロセッサ、XeonベースのサーバーSun Fireを2機種売り出した。デュアルコアあるいはクワッドコアを搭載するXeon45nmプロセッサを1~2個使ったこのサーバーはSolaris10やLinux、WindowsなどのOSをサポートし、消費電力を従来のサーバーより35%程度減らしたためHPC(高性能コンピューティング)市場やウェッブサーバー市場を狙っている。

将来のサーバー市場に向けたマイクロプロセッサやレジスタの基本となるSRAMセルの最小のものをIBM研究所が試作した。これはデザインルール22nmのプロセスを使い、0.1平方ミクロンのセル面積を実現した。このSRAMセルは、AMD、フリースケール、STマイクロエレクトロニクス、東芝、オルバニー大学ナノスケールサイエンス&エンジニアリング学部のパートナーとの協力のもとで開発された。

一方、日本HPはサーバー「HPプロライアント」を最大29%値下げしたと発表した。IT投資を喚起するためである。

サーバー用プロセッサの先駆者でもあるAMD社が収益改善に苦しんでおり、プロセッサ事業への集中をより強めるため、テレビ向けの画像処理チップを手掛ける部門をブロードコム社へ売却することを決断した。買収額は1億9280万ドル。この事業を支えてきた社員530人はブロードコムへの移籍対象となる。

最近の米国の大手企業では、リストラする場合でもただ単にクビを切ることのないように注意している。クビを切ると、残された従業員が「次は我が身か」と疑心暗鬼になり企業としての活動が停滞するからだ。残留組の従業員は転職情報に関心を注ぎ、仕事どころではなくなる。1980年代後半から90年代にかけての米国企業では経営者が従業員のことを考えずにクビを切ってきた。しかし、90年代中ごろテキサス・インスツルメンツ社はこういった従来のやり方を変えた。切り離すDRAM事業をやはりDRAMメーカーのマイクロンへ売り、防衛事業部門は防衛産業のレイセオンへ売却した。このようにするとエンジニアは自分のしたいビジネスを続けることができる。今回のAMDもやはり、TIのやり方で従業員が路頭に迷うことは避けた。


分析:津田建二

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