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沖電気の半導体部門をロームが買収する真相を読む

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5月最後の週の最大のトピックスは、いうまでもなく沖電気半導体事業のロームへの売却であろう。日本経済新聞が5月28日に報道した同日、沖電気工業がプレスリリースを発表している。これは、日経が沖電気売却のニュースを特ダネですっぱ抜き、新聞が先に出しぬいた形になった。

買収は以下のようにして行う。まず2008年の10月1日に沖電気工業が半導体事業部門を切り離し、OKIセミコンダクタを設立する。同日、OKIセミコンダクタの株式の95%をロームが買い受ける。沖電気の半導体事業部門の2007年度(2008年3月期)連結売上は、プレスリリースによると1416億円(新聞では1382億円となっている)、営業利益は38億円である。買収金額としては、900億円(株式100%相当)をベースとして、OKIセミコンダクタ設立時点での株式の譲渡価格を決めることになる。10月に沖電気半導体の株価が上がっていると買収金額も上がることになる。逆に下がっていると買収金額は安くなる。

沖電気は半導体事業部門を切り離す理由として、元々生産していた電話交換機向けをはじめとして社内向けチップの販売比率が数%に下がり相乗効果が薄れたためと新聞は伝えている。ただし、沖電気はかつてゲーム用ROMチップやDRAMなど社外向けのチップなどに力を入れており、最近急に社内向けが減ったというわけではないと思う。むしろもっと以前に半導体部門を分割するという手はあったはず。しかしここにきて分割するということは、総合企業として大きな投資に耐えられない、ということなのだろうと推測する。となると、理解できないのは、かつて沖電気の半導体は、設計部門と製造部門を分け、ファブレスとファウンドリを社内に二つ持つようなものだと篠塚社長はかつて記者会見で話していたが、なぜ設備投資が必要な製造部門と、ファブレスとを分けなかったのか、理解できない。

買い手のロームの財務状況はどうか。2008年3月期の200年度売上は3734億円で、対前年同期比マイナス5.5%減、営業利益674億円のマイナス21億円減となっている。しかし、売り上げの中身をよく見てみると、集積回路が1629億円、ディスクリートが1555億円、その他受動部品とディスプレイが234億円、315億円となっている。つまり、集積回路とディスクリートの規模がほぼ同じである。沖電気の半導体はほとんどが集積回路であるから、実は、沖電気の1416億円とロームの1629億円とはさほどの開きはないといえる。

ロームの製品ポートフォリオは、最先端というよりもそれほど投資しなくても作れるという、さほど微細ではないプロセスで生産できる製品が多かった。投資額も他の半導体メーカーよりも低かった。そのせいか、利益率は今でも18%と他の半導体メーカーよりも高い。すなわち、少ない投資で利益を上げてきたという背景がある。

ただし、利益率は2003年度26.6%、2004年度20.6%、2005年度・2006年度ともに17.6%、と次第に下がってきている。2008年度の見込みでは売上は前期比マイナス8.7%減の3410億円、営業利益はマイナス34.7%減の440億円、営業利益率12.9%と見込んでいる。つまり、これまでのような戦略の行き詰まりを見せている。

一方の沖電気半導体は、SOIデバイスを製品化したり、ウェーハレベルパッケージング技術を開発したりするなど先端技術を持っており、高耐圧デバイス、無線通信チップで実績がある。将来性のあるワイヤレステクノロジーをコアとして持っている沖電気を、ロームは欲しいはず。ロームは最近、IEEE802.11iのWiFiベースバンドチップを開発するなど無線技術へ力を入れている。高周波フロントエンドRF回路で、特にCMOSのRF回路で実績のある沖電気のRFチップを取り込めば、ロームはワイヤレステクノロジーを強化できる。

新聞報道では利益率の高いロームが業績低迷の沖電気を買う、という視点で述べている記事が多い中で、筆者は、ロームは沖の無線先端技術や高耐圧技術、SOI、WLPのSiPを欲しがっているとみた。だからこそ、両社Win-Winの関係になるとみている。ただし、本当のWin-Win関係は買収後のマネージメント次第で決まるであろう。


分析:津田建二

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