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東芝・NECとの統合交渉は真実か?そのメリットはなにか?強くなれるシナリオは?

1月30日の日本経済新聞に「NEC、東芝と統合交渉」という見出しにびっくりした人々が多かった。その前の決算報告会では、そのようなことは言っていなかったからだ。NECと東芝、さらには富士通を含めた新会社の話は出ては消え出ては消えという状態を繰り返し、これまでやってきた。今回の決算報告には、新聞で伝えるようなメッセージはNECエレクトロニクスからも東芝からも具体的な社名として出てこなかった。

NECも東芝もまず自社を強くすることを第一優先として、自社の工場の整理について発表した。NECエレクトロニクスは米国カリフォルニア州ローズビルにある6インチラインを2010年3月末までに閉鎖するとし、山形の川尻工場のやはり6インチラインを半年前倒しして2010年3月末までに閉鎖する。一方で、研究開発費を削減するためインドの設計会社など海外のリソースを活用していくことを発表している。

東芝はフラッシュメモリー以外の半導体ビジネスに関して業界再編を視野に入れて分社化も含めて検討していくという言い方をしたが、NECと交渉しているとは言っていない。東芝とNECとはここ2~3年何度も話し合いを行ってきたが、何度も話が壊れてきている。

東芝の西田社長は決算説明会で、「システムLSIはファブレスの参入による競争激化」という言い方をしている。これまでの企業買収の常識では、このような場合ファブレスを買収してしまうはずだが、日本のシステムLSIメーカー数が少し多い、というニュアンスの発言もしており、日本企業同士の買収に進むのならこれまでのM&Aの常識に反する統合となる。

メモリーとディスクリート以外の半導体ビジネスのうちアナログやロジックICなどが日本企業同士でまともにぶつかり合っているのだろうか。競合の関係にある製品は汎用の標準品か専用品かで全く違うはずだ。汎用品なら競合するが、専用品はカスタムごとに製品が違うためまともにガチンコで競合するはずはないと思う。システムLSIは専用品であるから、システムLSIで日本企業が多すぎるから統合して整理するという考えは納得できない。

例えば、LCDドライバ、MPEG-2デコーダ、エンコーダなどはもはや汎用品である。グラフィックスチップではnVIDIAやAMDなどに完敗しており、要は何を作るために統合が必要だというメッセージが出てこない。企業統合は本当にうまくいくのだろうか。そこにははじめに統合ありきで、何を作るからどことどこが競合関係にある/ない、といった観点から議論しているはずだが、そのような話は聞いたことがない。

本来のシステムLSIはメーカー間で競合することはなく市場の食い合いというものではないはずだ。NECエレはNECの顧客を持ち、東芝は東芝の顧客を持ち、ルネサスはルネサスの顧客を持つ。にもかかわらず統合というテーマが議論されるのは何をどう強くするために統合するのか、そのあるべき姿が全く見えてこない。新聞が統合をあおりたてているだけなのかもしれない。

本来、半導体メーカーが強い分野をますます強くし、弱い分野は切り離すか海外を含めたどこかへ売り、顧客をバッティングさせないことを心掛ければ日本企業同士の統合という言葉は出てこないはずだ。

少なくとも日本企業同士の統合よりもむしろ、海外企業の買収の方がその企業を強くする。日本企業が持っていないものを持っている海外の企業を手に入れれば、強くなれるはずだから。すなわち補完関係を持てる企業を自分のものにするのがこれまで海外企業のM&Aだ。例えばアナログに力を入れることを決意したテキサスインスツルメンツ社は、高精度アナログ製品で定評のあるバーブラウンを買収、ローパワーRFに強いChipcon社を買収、などアナログ分野の中でも自社の弱いところを補うために企業を統合させた。しかもバーブラウンは米国企業だがChipconは北欧の企業だ。TIに限らない。他のメーカーも同様にして自社をもっと強くするために他社を統合してきた。

NECエレクトロニクスと東芝が統合するとしたら、その統合が意味するものは何か。具体的な製品がどのような補完関係にあり、何が競合関係にあり、何をどうすることで自社が強くなれるのか、そのシナリオを明確に見せることが必要だろうが今は全く見えない。

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