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「ルネサス/NECエレ経営統合」報道の裏を読む

先週のニュースでみんながびっくり仰天したのは、ルネサステクノロジとNECエレクトロニクスの経営統合に関するニュースだろう。4月16日朝の日本経済新聞の1面トップ記事として採り上げられたこのニュースだが、その理由が明確ではないため疑問が多い。東芝とNECエレとの経営統合ニュースという勇み足があって間もなくこのニュースが出てきたため、またオオカミ少年か、と思う節がないわけではない。

ただし、今回は日経新聞報道だけではなく、朝のNHKニュースでも採り上げられた。日経とNHK、というこの二つのメディアが採り上げたという意味をじっくり考えてみよう。

そもそも日経新聞に掲載された記事は、1面トップで9段抜きという極めて大きな扱いだ。あきらかに特ダネとして狙った記事である。しかし、その内容をよく読むと、ニュースの部分は、「半導体国内二位のルネサステクノロジと同三位のNECエレクトロニクスは経営統合する方向で最終交渉に入った」というこの最初の1文だけ。残りの内容は、合計すると半導体世界3位になる、という子供でもできる算数の足し算だけ。9段ものスペースをぶち抜いて書いてある他の内容は、ルネサスはこんな会社だ、NECエレはこんな会社だという単純な説明しかない。

この朝は2件ほど海外の人とのミーティングがあったため昼ごろにはなったが、当然のことながら、NECエレとルネサスに確認の電話をした。NECエレの広報部は真っ向から否定、ルネサスにはなかなか電話が通じない。そうこうしているうちに日立製作所から「本日付の一部報道にて、当社の関連会社である株式会社ルネサステクノロジの統合に関する記事が掲載されましたが、当社として決定・公表したものではありません」という一つの文章だけのニュースリリースがファックスで送られてきた。

これらの事実を足し合わせてみると何が出てくるか。今回の統合の話はNECエレでもルネサスでもない、どこかのトップがルネサスとNECの合併を進めているよ、と日経およびNHKの記者に漏らしたことになる。これ以外にはルートとしてあり得ないからだ。ということは、日立製作所とNECの経営陣の誰かが日経とNHKの記者に漏らしたのである。それが誰かであるのかはどうでもよい。

ルネサスは日立が55%、三菱が45%の株式をそれぞれ持っている。NECエレの株式は上場しているとはいえNEC本社が65%程度持っている。つまり、どちらも独立した半導体専業メーカーの顔をしているが、実態はそれぞれの子会社にすぎない。経営権は親会社が持っているのである。これではいつまでたってもまともな半導体専業メーカーにはなれない。エルピーダメモリは日立とNECのDRAM部門が経営統合してできた会社であるが、今や日立とNECの株式比率は20%にも満たない。顧客、ファンド、一般投資家などが主な株主となっている極めて透明・独立の会社である。

もしルネサスとNECエレが合併したらどうなるか。しかも、いつまでたっても親会社が牛耳っている半導体メーカーだったらどうなるか。働く人たちのモチベーション、合弁トップのメッセージと責任感、経営陣の危機感、情報共有、企業の透明化、企業としてのさまざまな要素は満たされるのか、相当な苦難の道が予想される。

しかも今回の報道は、翌4月17日にもこれでもかといわんばかりに日経が記事を捕捉する記事を書き、「東芝・富士通は戦略練り直し」とまでも既定事実になるように押しつけている。ここまでしつこく追及する目的は何か。いずれかあるいは両方の親会社経営陣の強い意志を感じる。

半導体ビジネスという視点からみるとどうか。新聞を読み直しても統合のメリットは理解できない。単純な算数で1+1=2にはならないことは半導体業界にいる人間なら誰でもわかるはず。4月17日の報道によると、「両社とも主力製品はマイコンで、経営統合すれば需要家に対して価格交渉力が高まるとの期待がある」ということが「相乗効果」というメリットとして記事では述べている。しかし、この文章を見ると半導体の素人がこの話を進めているとしか読めない。やはり親会社の誰かなのである。

マイコンとはプログラマブルデバイスであり、顧客ごとに対応するデバイスだ。1社の顧客が2社購買する半導体製品ではない。このため価格交渉力は1社で決まるものであり、何社がまとまって決まるものではない。メモリーやコモディティ製品なら価格交渉力ということは言えるが、マイコンなどのプログラマブル半導体デバイスではありえない。

マイコン事業で統合するメリットは何か。製品としてのメリットは全く見えない。ただ、少なくとも前工程のプロセス事業ではともに多品種少量生産に適した工場を持っているといわれるため、前工程の統合によりファウンドリ機能を強くするというメリットはあるかもしれない。大量産工場の東芝や富士通とは全く違う工場だからファウンドリのメリットはあるかもしれない。となると、NECエレとルネサスがファブレスとファウンドリに分け、ファウンドリ部分だけ統合するということだと意味があるかもしれない。

しかし、設計となるファブレス事業は顧客も違えば、製品の種類、開発システムも全く違う。それぞれオープン方式をとり、外部のサードパーティにソフトウエア開発を託しており、そのコンソシアム的な組織は製品・顧客を拡大していく上で大きな役割を果たしている。もしこのファブレス事業までも統合したら、どうなるか。最も迷惑を被るのはマイコンの顧客であり、それぞれサードパーティのパートナーたちだ。1+1<0.5になる恐れさえある。相乗効果ではなく、相殺減少効果、すなわち廃業への道である。

マイコン企業同士の合併はどうなるか。日本のルネサスをみればよい。日立と三菱のマイコンが一緒になって、世界の半導体ビジネスよりも高い成長率でこれまでやってくることができたか?日立と三菱が組んで成功したといえるか?同じことをNECとやってうまくいくと思うか?

これらの考察から言えることは、日立とNECが何らかの形で一緒に業務をやりたいのであれば、半導体ビジネスをそれぞれファウンドリ部門とファブレス部門に分け、ファウンドリ部門だけ統合するというのが、強いて言えばありうるソリューションかもしれない。

否定するばかりが能ではないから、一つだけ提案する。インテル、TI、IBMなど苦難を乗り越えてトップグループになった企業を参考にしたらいいのではないかということだ。負け組同士の大企業合併での成功例はほとんど見当たらないからだ。インテルやTIは、自分たちがどの分野を強化するかを真剣に内部で議論し、そして戦略をみんなで作った。後はみんなで実行する。このようにしてインテルはトップの地位を得、TIは見事に復活を遂げた。弱い部分を強化するためには強い技術を持つベンチャーを買収、未来の製品へとつなげる。TIは今でも弱い低消費電力RF会社を強化するため買収を続けたり、パワーマネジメントを強化するため専門マネージャーを雇ったりしている。

本当に合併による相乗効果で両社を伸ばそうとするならば、もっと違う相手(おそらく海外のベンチャー数社)と組み、時には買収し、製品ポートフォリオをどこにも負けないものを揃えていく方式であろう。海外のベンチャー企業は買収されることを喜ぶ場合も多い。それだけ大企業に高く評価された結果だからである。

間違っても傷のなめ合いはしない。自社がこれ以上続けても、周辺のビジネス環境が脅威になればその事業は切り離す。インテルもTIもDRAMを切り離したのは、日本、韓国が大量生産して、自分たちが事業を続ける意味を失ったからだ。ルネサスもNECエレも強くするためにどうするべきかを考えればよい。DRAMビジネスを各社がやめたときの理由が実は明確ではなかった。DRAMを強くするためにどうすべきか、何がサムスンに比べて弱かったか、サムスンやマイクロンに勝つためどうすべきか、という視点がなく、安易にSoCだシステムLSIだと、非DRAM事業を推進しただけにすぎない。東芝は、舛岡氏が開発したフラッシュメモリーをたまたま持っていたため、その生産時期を早めただけで結果的に成功した。そのフラッシュメモリーが一時的に供給過剰になり今苦しんでいる。

安易な経営統合で失敗した時は親会社がどのように責任をとるのか。親会社の推進派がそれを推進するなら自分も子会社に飛び込んで業務を執行すべきだろう。子会社に一方的に押し付けるべきではない。責任をとるなら自ら半導体ビジネスの指揮をとること、しかも1年で結果を出すこと、目標を立て実行できなければすぐ退陣すること、など明確な責任体制を作るのなら、経営統合してみればよい。ただし、その被害者となりうる従業員への償いをどうすべきかについても今から用意しておかなければ経営者としての責任を果たすとはいえない。

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