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携帯電話機メーカーと通信キャリヤとの関係を逆転させたiPhoneの衝撃

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6月1日の週で最大のトピックスとして、半導体メーカーの参考になる新しいビジネスモデルの話をとりあげる。それは、iPhoneの販売権が本命と見られていたNTTドコモではなく、ソフトバンクが手にしたことである。米国だけではなく世界的に人気の高いiPhoneをソフトバンクが販売することで、ソフトバンクは市場シェアアップを狙える位置に来た。このビジネスモデルがこれまでとはどう違うのか。

iPhone登場の衝撃は実は、ユーザーインターフェースのイノベーションだけではなかった。ビジネスモデルまでも変えてしまったのである。これまで日本の携帯電話産業では、携帯電話メーカーがNTTドコモなどのキャリヤ(通信業者)に収め、キャリヤが消費者に売ってきた。携帯電話機メーカーはキャリヤの意向にひたすら沿って機種を開発、納入してきた。iPhoneの登場は、この主従関係を180度逆転させたのである。

すなわち、携帯電話機メーカーがキャリヤを選び、携帯電機メーカーが消費者に電話機を直接販売する。携帯電話機メーカーは全量をキャリヤに買い取ってもらえないというリスクを背負うものの、キャリヤとは独立の関係を保つことができる。実は欧州では、キャリヤと携帯電話機メーカーとの関係はこれが常識である。携帯電話機メーカーが消費者に直接販売するため、ゼロ円携帯電話などは存在しない。日本ではキャリヤが売れない電話機に対して通信料金で元をとることができるため、無料の携帯電話というものがある。

携帯電話機メーカーは消費者の厳しい選択の目にさらされるため、買い手の動向を常に気にしながら設計製造していた。このためどの国においても厳しい競争に勝ち残るためのマーケティングに注力してきた。日本の携帯電話機メーカーはキャリヤの言う通りの携帯電話機を作ればよいため、その必要はなく、グローバル市場では通用しない、という結果を生んでしまった。

逆にいえば、人々に広く受け入れられるには、人々が望むものを作らなければならない。サムスンが初めて世界で2位に浮上できたのは、マーケティングに力を注いだからである。

今回のアップルのiPhoneがソフトバンクのネットワークで使えるようになると、ソフトバンクに乗り換える消費者が多数出てこよう。ソフトバンクの狙いはまさにここにある。

一方のアップルはiPhoneを使えるキャリヤの選定をその国のトップキャリヤに限ってきた。しかしNTTドコモとは折り合わなかったことから、ソフトバンクがiPhoneを手にすることになる。ところが、アップルは、iPhoneの通信料のいくらかをソフトバンクからいただくことになっている。これがまさに新しいビジネスモデルだといえる。これまで日本では携帯電話機メーカーには通信料は全く入らなかったが、アップル社は通信料の一部を受け取ることができる。

NTTは立場が逆転することに耐えられなかったのではないか。世界的に人気のあるiPhoneをソフトバンクのネットワークで使えるということは長い間、iPhoneを待ち望んでいた日本の消費者の心をくすぐることになり、通信料の一部をロイヤルティとしてアップルに支払うとしてもそれ以上の勝算がソフトバンクにあるとみているはずだ。

また、今回のソフトバンクがiPhoneを使えるようにするための交渉に孫正義氏自らが出かけただろうとは容易に想像できる。孫氏とアップル社のスティーブン・ジョブス氏とはほぼ同じような年齢で、パソコン創生期にインテルやモトローラのマイコンをいじって遊んだ仲間でもあるからだ。


分析:津田建二

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