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インテルがスーパーコンとHPCにも手を広げる

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先週はゴールデンウィーク明けで本来ならネタ切れの週ではあるが、5月8日の日本経済新聞朝刊トップに、「ローム、LSI開発、家電の待機電力ゼロに」という記事が掲載され、驚いて内容を読み、ニュースリリースを取り寄せた。しかし、これだけの情報ではまだ実態が分からない。技術者から取材してみないと何とも言えないが、このLSIを使ったからといって家電の待機電力はゼロにはならないようだ。それよりもインテルが新しい動きを見せていることに注目したい。

インテルは、スーパーコンピュータメーカー老舗のクレイ社と共同でインテルのプロセッサを使ったHPC(high performance computing:高性能コンピュータ技術)技術の開発に取り組むことで提携したニュースに続き、NASA(米航空宇宙局)およびグラフィックスの老舗SGIと共同で次世代のスーパーコンピュータを開発すると発表した。

クレイと提携するHPC分野では、これまでプロセッサにはAMD製が使われており、プロセッサ間をつなぐバスにはHyperTransportを中心とするGビット/秒の超高速バスが使われてきた。HPC関連のプロジェクトにインテルが加わったことで、高性能マイクロプロセッサ分野でAMDとの競争が激化することになる。クレイとの提携では、アドバンストインターコネクトも開発するテーマに入っていることから、HyperTransportバスを進化させるバスか、全く異なるバスか、この超高速バスにも目が離せない。

NASAとのプロジェクトでは、モデリングとシミュレーションに使う目的のスーパーコンピュータであるから、従来通りの超超高速を狙っている。2009年までにピーク性能1ペタFLOPS(1ペタはギガの100万倍)、2012年までに10ペタFLOPSのスーパーコンを開発する。インテルはマルチコアプロセッサを開発する。

インテルの動きに対してAMDは、高性能マルチコアプロセッサを使ってスーパーコンピュータ分野ではなく、HPC分野の中の仮想化技術などもっと市場の広い分野へと広げていく。AMDのOSRC(Operating System Research Center)において、Sun MicrosystemsのOpenSolarisのOSとxVM仮想化製品ファミリーの最適化とチューニング技術で提携するとAMDは発表した。AMDのマイクロプロセッサOpteronを利用してSunのOSと仮想化ソフトウエア層を最適化することで、ビジネス用途での仮想化技術ではOpteronが欠かせなくなることをAMDはもくろんでいる。ミッションクリティカルな業務でSunのSolarisが使われており、ここにOpteronを導入して市場を拡大していけるとAMDは読んだ。

インテルはスーパーコンピュータ分野への進出と同時に、モバイルPCなどへも進出しており、PC技術をハイエンドへ、ローエンドへと拡大している。プロセッサのローエンドの象徴的な次世代技術としてWiMAXがある。米国の大手通信キャリヤであるSplint Nextelが通信機器メーカーのClearwireとWiMAX事業を統合すると発表した。新会社はClearwireの名称を受け継ぐが、Splintは株式の51%を持つ。この新会社にインテルは10億ドル、Googleは5億ドル、ケーブルテレビのComcastは10億5000万ドルを出資する。今年末までの商用化を目指す。

インテルの製造に関する最大のニュースもある。インテルは、サムスン電子、TSMCと共に450mmウェーハの量産を2012年までに目指すことを発表した。サムスンはDRAMとフラッシュという微細化・大口径化にぴったりのメモリーデバイスを持ち、TSMCはさまざまな種類の半導体の製造を世界中から引き受けるというビジネスを展開しているため、450mmで大口径化のメリットは享受できると思われる。しかし、インテルはこれまで巨大市場のパソコン向けに特化してきたメーカーだからこそ、大口径化への意味はあった。しかし、これからも従来通りに巨大な需要が見込めるかどうか、パソコン向けCeleronなどのプロセッサと、携帯機器向けAtom、少量のハイエンドプロセッサで、これまでの1.5倍もの需要が見込めるのかどうか、意見が分かれるところではないか。

もちろん、日本のメーカーにとって450mmウェーハを要求するところは限られるだろう。しかも450mm=ハイテクとは限らない時代に入ってきているのである。

最後に、ロームの待機電力ゼロのLSIについて触れておく。これはCPUであり、内部レジスタ部分に不揮発性メモリー(FeRAM)を使ったデバイスである。一時記憶という役割のCPUレジスタの電源を切ること自体、これまでにない使い方である。ニュースリリースを読むと、CPUへのクロックとレジスタへの電源をオンオフするという使い方らしい。CPU全体の消費電力は確かに下がるだろうが、さほどの高速化は期待できない。

待機電力とはチップをしばらく使わないという状態であり、民生機器では例えばコンセントにコードをつなげたままテレビの電源を切っているという状態を指すことが多い。CPU内部レジスタをFeRAMに変え電源のオフ状態を作り出すことでCPUの消費電力は下がるものの、家電には他のチップも含めれるためなぜ家電の待機電力がゼロになるのか全く理解できない。しかも、強誘電体メモリーであるから当然その容量は大きいため、高速動作には追従できないはずだ。


分析:津田建二

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