次世代FPDの量産中止や延期のニュースから見えてくるSi半導体の巨大な市場
先週は、次世代薄型パネルの量産中止や延期というニュース、ルネサスの500億円増資、燃料電池や太陽光への政府の補助など、ニュースには事欠かない週であった。その中からもやはり半導体ビジネスがこれからのカギを握るのであることを示唆するようなニュースが目白押しだった。逆にフラットパネルディスプレイの行き詰まりを象徴するニュースでもあった。
日本経済新聞は3月26日、次世代薄型パネルの量産計画を見直す動きを伝えている。ソニーがその関連会社で試作し量産が間近と見られていた、FED(電界放射型ディスプレイ)の生産を中止、会社を清算する方向にあるという。FEDは、キヤノンや東芝がかつて生産しようかと考えていたものの特許の面から生産を延期したSED(プレーナ構造の電界放射型ディスプレイ)と同じ電界放射型のディスプレイだ。ブラウン管とほぼ同じ原理で動作するため画面がきれいで応答速度は速い。また、東芝松下ディスプレイテクノロジーも有機ELの量産を延期するという。これも液晶ディスプレイよりは画面がきれいである。
しかし、いずれのディスプレイも後発であるため、コスト的には液晶には全く太刀打ちできない。ソニーが11インチの有機ELテレビを20万円という液晶よりも数倍も高い金額で発売したが、その後爆発的に売れたという話は聞こえてこない。画面の大きな液晶並みのテレビはその後何も出てこない。
最近、応答速度の遅い液晶が従来の30フレーム/秒のテレビではなく、60Hzあるいは120Hzという高速で動作する液晶テレビが続々と出ているが、これは液晶の応答速度の遅さを半導体メモリー(ビデオRAM)で 補ったために可能になった技術だ。ディスプレイは何でもよいのである。これまで液晶の画面の悪さをディスプレイで解決しようとして、いろいろなディスプレイが出てきたのであるが、もはやその必要がなくなった。半導体があれば解決できるからだ。だから、もうディスプレイに注力しなくても半導体のマーケットと応用をきちんと捉え、顧客のニーズを100%理解していれば画面のきれいなテレビは生産できる。やはり、半導体の成長は続くと考えてよい。
一部ではSi半導体は限界だからSiCなどの半導体へシフトする、というような主張を耳にするが、SiCはシリコン結晶を成長させるときのるつぼに使われる材料であり、SiC結晶を作るのにはさらに高温に耐える材料が必要となる。しかし、SiCは昇華という性質があり、常圧では高温にしても固体からいきなり気体になる。すなわちプラズマなどの気相成長で作製しなければならず、低コスト化の見込みは今も今後も全くない。大部分のシリコンを置き換えることはありえない。市場は限られる。
やはりシリコンこそがこれまでも成長を続けられる唯一無二の材料だ。家庭用の太陽電池に経済産業省が補助金を復活させ、燃料電池にも補助金をつけるが、太陽電池のパネルや燃料電池そのものだけではなく、安定に電力を供給するための半導体の市場が膨らむことを見逃してはならない。LED照明も同じだ。東芝がLED照明用のモジュールを量産する。モジュールにもLEDという光半導体だけではなく、LEDをドライブするための半導体、制御する半導体、電力用半導体などが必要になる。
それらの電力デバイスには当然パワーマネジメントチップが必要であるが、富士電機とTDKが事業統合して無停電電源装置市場のシェアを上げるという話題も上っている。これにもパワーマネジメントチップが使われる。特に最近ではデジタル電源にして制御をすべてデジタルで行い、装置の効率を上げ(消費電力は下がる)、装置を小型にするという動きも定着してきた。
先週、デジタルサイネージ(屋外広告のLEDボード)に視聴者の行動パターンを記録し、それに基づいて消費行動に合わせた売り場や売り方をアダプティブに変えて、消費者のし好に直結させようというニュースもあった。センサーとディスプレイ駆動、制御マイコン、無線チップ、センサー信号処理回路など、少し考えるだけでも山のように半導体が必要になってくることが見えてくる。
最後に、3月5日のマーケットで、中国が内需拡大のために家電製品に対して補助金を出すことを伝えたが、それを受けて家電メーカーのTCLが増産を始めることを日経が伝えている。景気の行き先は必ずしも暗い話ばかりではない。