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規制をくぐる新AIチップ、中国の自立化など脱トランプ化の動きが活発に

先週は、トランプ米大統領の影響を避けようというニュースが多かった。Nvidiaが中国との話し合いで規制を避ける新製品を開発することで合意している。ファーウェイは工場を拡張し、中国ファウンドリ2社の25年1〜3月期(1Q)の業績も絶好調だ。さらにEUも米国の研究者を受け入れようとし、日本にも協力を呼び掛けている。日本もソフトバンクが高性能メモリを自主開発する。

Jensen Huang, CEO, Nvidia

図1 Nvidiaのジェンスン・フアンCEO 出典:筆者撮影


Nvidiaのジェンスン・フアンCEOが4月に中国に渡り、政府要人などに面会した。どうやらその内容が明らかになったようだ。5月9日のロイター通信によると、Nvidiaが中国向けに「H20」の性能を落としたAI半導体を設計していると報じた。Nvidiaは、前にもH100というGPUの性能を落としたH10を中国向けに出荷していたが、このチップに対して実質的に禁輸になった。H20はH200の性能を落としたバージョンで、これも禁輸となった。そこで、H20の性能を落とした新製品を設計しているという訳だ。2カ月以内で新チップをリリースする予定だとしているが、設計完了なのか、TSMCでの製造済みなのか、明らかではない。

中国の顧客にはクラウドプロバイダーが含まれるということなので、Alibaba GroupやByteDance(TikTokの親会社)、Tencentなどが顧客になりうる。Nvidiaの2025年1月期における2025年度売上額の内、中国向けは13%で170億ドルだとしている。Nvidiaは中国向けにあらゆる手を使って、規制から逃れようとしている。

NvidiaのフアンCEOは、経営手法においても役員以下は全てフラット、という構造を採用、社員の考えや情報を入手しているが、Intelの新CEOのリップブー・タン氏がNvidiaの経営体制を参考にする、と8日の日本経済新聞が報じた。「(大企業病になったIntelの)企業文化を根底から変える」と述べており、「官僚主義を廃し、技術主体の会社に生まれ変わる」という。フアンCEOは、3万人の企業になってもフラットな体制を変えないと述べており、その理由を「ピラミッド構造では、社員からの情報がトップに来るまでにほぼ半減しているため、最新の現場や顧客情報が得られない」からだとしている。

中国側も自主開発に向かっている。中国の華為科技(ファーウェイ)は、子会社のハイシリコンによる7nmチップの設計とSMICによる製造で7nmチップを入手できているが、深センにある本社の近くに3工場を設立していると英フィナンシャル・タイムズが報じた。先端チップを作る工場や、リソグラフィ装置を作る工場(SiCarrier社)、昇維旭技術(SwaySure)によるメモリ半導体の工場だという。

中国のファウンドリ企業SMICとHHgraceは25年1〜3月期の業績を発表したが、どちらも好調だった。SMICの売上額は前年同期比28%増の22億ドル、純利益は1.88億ドルだった。中国向け比率が1年前の82%から84%に上昇、米国向けは15%から13%へ減少した。HHgraceの売上額は、同18%増の5億ドル、純利益は375万ドルで、中国向け比率は82%、北米向けが10%だった。

トランプ政治を嫌い米国から脱出する研究者をEU(欧州連合)が積極的に誘致しているが、「Horizon Europe」もその一つ。EU加盟国だけではなく非加盟校国でも準参加という形式で参加でき、韓国がすでに参加し、シンガポールも参加への調整中だという。Horizon Europeプログラムは、RUが21年〜27年に935億ユーロ(15兆円)を投じる。企業や大学は公募に通ればEUから助成を受けられる。日本も国として参加すれば、大学や企業も加わりEU資金を得られる。

国内ではソフトバンクがAI開発に力を入れているが、データセンター向けに高性能メモリの自主開発を目指す。2年間で30億円を投じサンプルを試作する、と9日の日本経済新聞が報じた。宮川潤一社長は「GPUに大量のデータを転送する高性能メモリが重要になる」と述べていることから、HBMあるいはその改良版だと思われる。

(2025/05/12)
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