2024年ノーベル物理学賞、化学賞ともAI関係の研究者が受賞
2024年のノーベル物理学賞、化学賞は、ともに頭脳内部の神経細胞ネットワークをモデルにした機械学習、すなわちAI(人工知能)関係の科学者たちが受賞した。物理学賞はAIブームを生み出した科学者たち、化学賞はそれを利用して創薬開発などに生かす手法を求めた科学者たちに与えられた。AIはさまざまな研究分野でデータを解析する手法としても浸透し始めている。ラピダスに国が出資する検討が始まったようだ。
エレクトロニクス半導体に近い物理学賞では、プリンストン大学のJohn Hopfield教授が1980年代のAIブームの時にニューラルネットワークモデルANN(Artificial Neural Networks)を開発、画像の保存と再構成が可能な連想メモリを生み出した。もう一人の受賞者であるカナダトロント大学のGeoffrey Hinton教授は、2012年にニューラルネットワークのモデルを画像認識に応用したところ、誤認識率が他の研究者の26〜30%だったのに対して、10%以上低い16%を得て、コンテストで圧勝した。

図1 Nvidiaの本社ビル 三角形の要素を基本として絵を描くグラフィックスを表現している
今日のAIブームは、この時のニューラルネットワークのモデル「AlexNet」から始まった。Hinton教授らのグループが学習と推論をさせるために用いた演算用の半導体チップがNvidia(図1)のGPUと、GPUに集積している多数の積和演算器を並列動作させるためのソフトウエアCUDAであった。GPUはこれまでゲームに使われる絵を描くためのコンピュータグラフィックスチップとして使われ、その後スーパーコンピュータの数値演算にも使われてきた。AlexNetの高性能によってニューラルネットワークの演算にも使えることがわかり、今日のAIブームへとつながった。このため、NvidiaのCEO(最高経営責任者)であるJensen Huang氏は、この2012年をAIのビッグバンの年と呼んでいる。
生命の細胞を構成するタンパク質は20種類のアミノ酸で出来ているが、David Baker氏は生命のビルディングブロックというべき手法でそれらを表現し、全く新しいタンパク質を作り出した。Demis Hassabis氏とJohn Jumper氏はAlphaFold2と呼ぶAIモデルを表し、これを使って2億種類ものタンパク質の構造を予知できるようになったことでノーベル化学賞を受賞した。特に何億と言われる分子構造の組み合わせの数から実用化できる治療薬を推論することで組み合わせ数を数百程度に絞り込めるため、開発を早めることができる。
ニューラルネットワークのモデルを用いるAIは、2022年には生成AIの発明につながった。ただし、AIは何でもできるわけではなく、特定用途向けに使える技術である。このため自動運転用AI、創薬開発のためのAIなど用途別のAIを作る必要がある。しかしながら自社の得意な分野のAIを開発しておけば、それをビジネスに生かすことができるため、誰にでもチャンスが広がったといえる。
今のところAI半導体ではNvidiaがトップだが、AMDやIntelも追いかけている。10日には、AMDが新しいGPU「MI325X」を発表し、2024年内に発売する、と同日の日本経済新聞が報じた。このGPUはNvidiaが現在出荷中のH200と比べ、性能が最大4割高まるという。
ラピダスに対して、政府が出資を協議していることがわかった、と10日の日経が伝えた。政府の支援金で建設した工場などと同社の株式を交換する案などが浮上しているという。ラピダスに関しては国からの補助金に頼るのではなく、きちんとした株式交換など出資の形で資金調達すべきだという声が業界内でも上がっていた。当初の計画では1兆円必要と言われていたが、いつの間にか5兆円に膨らみ、これまでの支援では、税金で全てを賄うことに対する国民の合意が得られないだろうという声もある。9200億円支援することがすでに決まっている。
これを受けて、ラピダスのCFO(最高財務責任者)として、ソニーグループで執行役員財務担当を務めた村上敦子氏の就任が決まった、と12日の日経が報じた。村上氏は財務のプロとしてラピダスの資金調達を多様化し、財務を安定化させる。逆にこれまでCFO不在で経営してきたのかどうかについて、日経は触れていない。