TSMCの2024年第1四半期に見る半導体市況の回復
半導体産業の景気を占う指標の一つでもあるTSMCの2024年第1四半期(1〜3月期)の決算が報告された。売上額は前年同期比16.5%増の5926.4億元となり、利益も8.9%増となり久しぶりに増収増益となった。半導体需要の回復はSIA(米半導体工業会)の数字にも表れている。またTSMCに続きSamsungのテキサス州新工場にも補助金64億ドルが支給される。
4月19日の日本経済新聞が、AIが活況でスマホから主役交代、という見出しで大きく報じたように、TSMCの業績を示している。2024年第1四半期の売上額は、前四半期の決算発表で予想したような180〜188億ドルを上回る188.7億米ドルを達成した。純利益も前年同期比8.9%増の2254.9億台湾元となった。営業利益率は42.0%になった。稼いだ原動力は7nmプロセスノード以下の微細化技術である。7nm以下のウェーハプロセスの売上額は、全売上額の65%にも及ぶ(7nmプロセスが19%、5nmプロセスは37%、3nmプロセスが9%)(図1の右)。
図1 TSMCの2024年第1四半期の売上額の内訳 出典:TSMC
また、半導体製品の応用別(図1の左)では、データセンターやスーパーコンピュータなどのHPC(High Performance Computing)での売り上げが46%、スマートフォンが38%となり、売り上げのけん引役が交代した形となっている。これまではスマホ向けが大きくHPCと争っていた。これはAppleのiPhone 15の発表が昨年の9月下旬であったことから、2023年第4四半期にはスマホ売り上げがHPCと並んだ。iPhone 15向けのSoCプロセッサなどによる3nmプロセスの売り上げが全売り上げの15%を占め、スマホ向け売り上げは、HPCと共に43%を占めていた。
HPCの中でも生成AI向けのNvidiaのGPU向けの需要が最も大きく、2023年の第2四半期以降、NvidiaのGPUは生成AI開発者の間で取り合い状態になっていた。Nvidiaの売り上げは大きく伸び、Intelの売り上げに匹敵するほどになった。Nvidiaの決算期は毎年2月から翌年の1月までとなっているため、必ずしも正確な1〜12月での比較ではないが、Intelの売り上げに近づいていることは確かだ。Nvidiaの決算では、コンピュータの売り上げも加えているが半導体だけの売り上げを分離していないため、AI市場調査会社によって大きく異なる。Nvidiaの全売上額だけを比較するとIntelを超えていると予想される。
生成AI需要は大きく高まっているが、半導体を使う応用機器ではスマホとパソコンの台数がいまだに絶対的に大きいため、スマホとパソコンの動向を無視することはできない。この2つの大きな市場が少し変動するだけで半導体市場が大きく揺らぐからだ。
またTSMCは九州大学とも共同研究やインターンシップなどを盛り込んだ包括連携協定を結んだ。すでにTSMC社員を講師として招いた授業を始めており、初回は少なくとも148人の学生が受講した、と18日の日経地方版は伝えている。
SIAが発表した、2024年2月の半導体販売額は前年同期比16.3%増の461.7億ドルとなった。この数字は3カ月の移動平均値だが、2月は旧正月での休暇の影響もあり前月比では3.1%減となっている。世界全ての地域で前月比ではマイナスである。
米国商務省はSamsungがテキサス州テイラー市に建設する半導体新工場と研究開発拠点に最大64億ドルを補助する。すでにあるテキサス州オースチン市の工場から比較的近い新工場にSamsungは総額400億ドルを投資する。ここで2nmプロセスノードの製造ファウンドリを行う。4月3日にはSamsungと常に競争するSK Hynixが米インディアナ州に先端パッケージ工場(HBMを生産)に38.7億ドルを投資する旨を発表したばかりだが、R&Dでパデュー大学と共同開発し、米国政府の補助金を狙っている。
日本でもKDDIやさくらインターネットをはじめとするデータセンター事業を手掛ける5社に経済産業省が合計725億円を補助する、と19日の日経が報じた。他の業者にはGMOインターネットグループと起業したルティリア(京都市)、ハイレゾ(東京新宿区)がいる。AIスーパーコンピュータの整備に必要なNvidiaの高価なAIチップを購入するなどのため、補助する。
半導体の需要が高まりつつあることを受けた動きは続いている。生成AI向けにはIntelも新GPU「Gaudi 3」を発表、SNSのLINEを傘下に持つ韓国Naver社が、NvidiaのAIチップよりも安価なIntelのGaudiチップを採用、そのソフトウエアを開発するという。NaverはSamsungのAIチップも採用し、高価なNvidiaのチップと順次交換していくという。
ラピダスはシリコンバレーに顧客開拓の拠点を設けた。2027年の量産を目指し顧客を開拓する。子会社のRapidus Design Solutionsの社長にはAMDやSanDiskでも営業経験のあるHenri Richard氏が就任した。
また、キオクシアは年内にも東京証券取引所への上場を目指し、その手続きを再開する方針を固めた。17日の日経によると、主要株主で米投資ファンドのベインキャピタルが15日にキオクシアの取引銀行に新規株式公開(IPO)を目指す方針を伝えた、と報じている。