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CES 2024ではテクノロジーが化粧品や小売り業者にまで拡大した

先週、CES 2024からのレポートが多く、今年のテクノロジーの動向を知る上で、これまでとは違う技術の広がりが見られた。2つの基調講演は大手化粧品メーカーのL’OrealのCEOと米国の小売最大手のWalmartのCEOであった。いずれも技術の広がりを示している。IntelのPat Gelsinger氏の講演(図1)はAIをテーマとし、スタートアップRabitt社はスマホに代わる可能性を秘めたデバイスを発表した。

Pat Gelsinger, CEO, Intel / CES 2024

図1 CES 2024の対談式基調講演に登場したIntel CEOのPat Gelsinger氏 出典:CES 2024の基調講演ビデオ


ラスベガスで開催されたCES 2024の基調講演の例として、L’OrealのCEOであるNicolas Hieronimus氏のプレゼンを紹介する。同氏は美への追及は太古の昔から変わらないが、ここにきてテクノロジーを導入したビューティイノベーションが生まれた、と表現した。口紅や白粉(おしろい)などの塗りから始まった化粧は、肌に良くない副作用を避けるため、科学的に成分を研究しそれを技術的なイノベーションへと発展させた。化粧品トップメーカーのL’Orealの成功は、科学・技術を進化させたことによる、とHieronimus氏は述べている。

最近では、生成AIやメタバース、AR(拡張現実)などのテクノロジーが使えるようになってきたため、音声ベースの生成AIで、パリからラスベガスまでの長いフライトで疲れた肌にはどのような対策を施すべきか、と生成AIに聞いて自分の写真を送ったデモを示したが、生成AIが年齢を聞いてきたためそこで対話をやめてしまった。こんなハプニングがあったものの、皮膚診断の精度を上げるため、750種類の治療法や6000枚の画像データ、50ヵ国から1万の製品テストや15万人の皮膚科医からの画像データなど極めて豊富なセットを構築している。

美へのテクノロジーとして、紙の毛を染めるカラーソニックデバイスをデモして、ブラシの付いたデバイスで髪の毛をなぞるだけで染まることを示した。技術の説明はなかったが、染めるための2種類の薬剤をブラシの先に送り超音波で髪となじませるようだった。また、脱炭素に向けた動きの一つとして、消費電力を下げるため過熱しない全く新しい原理のヘアドライヤーを紹介した。これも詳細は述べていないが、IR(赤外線)パルスを照射して髪を瞬時に温め乾燥させるようだ。サーモグラフィで従来のヒーター式のドライヤーと比べた結果、髪の毛に当たる風の温度は20度程度のままであった。さらに3番目の例として、腕や指が不自由で口紅を上手に塗れない方に対して、ハプティクスを利用した器具を持つと自動的にうまく塗れるようになるというデモを見せた。

今後は、パーソナル医療のように化粧品もパーソナル化をしていくことになり、そのためにはテクノロジーが求められるとしている。デモには紹介こそなかったが、全て半導体技術が使われており、流したビデオにはチップが映っていた。

IntelのGelsinger氏の基調講演は、米CNBCテレビのクリスティーナ記者からの質問を受けるという対談形式であった。AIはまだ始まったばかりであり、今はかつてのWi-Fiの勃興期のようだと述べ、Wi-Fiが20年後に当たり前になったように、AIも20年後には当たり前の時代がやってくると主張した。昨年暮れにAI Everywhere戦略を打ち出したIntelは、クラウドの生成AIからパソコンやIoTレベルのエッジまでAIが広がっていくと述べると、AIは良いものなのか悪いものなのかと聞かれ、テクノロジーは規制と共に進んでいくので、良いことを示すようになると答えている。さらに、「重要なことは、AIは新しい経済的価値を生むことであり、例えば生産性を1万倍に上げるなどで社会の役に立つ」と強調した。


Rabbit r1 / CES 2024

図2 スタートアップのRabbit社が開発したr1デバイス 出典:CESでの講演ビデオ


変わり種では、スタートアップのRabbit社がスマートフォンに代わりうる可能性のあるデバイスをプレゼンした。これは、手の中に収まる程度のかつてのiPod程度の大きさのデバイスで、クラウド上の生成AIを音声で動かすことで、スマホのタッチパネルを全て音声で代用するというもの。例として、タクシー代わりのウーバーを手配する、ロンドン行きのフライトと観光スケジュールを手配する、というデモを示した。また冷蔵庫の中を内蔵のカメラで撮影し、低カロリーの夕食のレシピを作ってくれと言えば、生成AIがオムレツを提案する。歌手の写真を撮影すると、歌手の歌声が流れてくる。

尋ねた時の答えは全て音声と同時にテキストも表示する。音声認識にはLAM(大規模アクションモデル)と呼ぶ技術を開発したという。常にクラウドとのやり取りによる生成AIを利用した対話だが、その遅延は500msだと述べている。デバイスの価格は199ドルと安い。しかも生成AIを使うサブスクリプション料金は発生しない。24年のイースター(3月31日)に発売する予定である。

(2024/01/15)
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