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パワー半導体、AIチップ、税制優遇など政府の手厚い支援、続出

ロームと東芝デバイス&ストレージ(図1)が申請していたパワー半導体の供給確保計画を経済産業省が認定し、両社に補助金が交付されることが決まった。首相および経産大臣がNvidia CEOのJensen Huang氏と会いGPUの日本への供給確保を要請した。政府はAIチップにも補助金を支援する。政府は半導体など生産量に応じて税優遇する仕組みを提案している。法人税の上限額を20%とする。

加賀東芝エレクトロニクス / 東芝デバイス&ストレージ

図1 300mmラインを持つ加賀東芝エレクトロニクス 出典:東芝デバイス&ストレージ


ロームと東芝D&Sが共同で経産省に申請していたパワー半導体の量産計画では、ロームがSiCパワー半導体、東芝D&SがSiのIGBTやMOSFETパワー半導体への投資を重点的に行うことで効率的に供給力を拡大しそれを相互に活用する、製造に関する連携となっている。ロームはこれまでSiC MOSFETの量産に力を入れてきており、東芝D&SはIGBTなどに300mmウェーハによる量産を開始することで生産能力を増強する。この計画を経産省が認定することで、それぞれに補助金が交付されることになる。供給確保計画では、ロームが2892億円を投資し、東芝D&Sが991億円を投資する。両社への助成金は、事業総額の1/3となる最大1294億円となる。

生産場所は、ロームがラピスセミコンダクタ宮崎第二工場、東芝D&Sは加賀東芝エレクトロニクスとなる。SiC半導体は、シリコンと比べて耐熱、高耐圧と言われているが、物理的に固い、化学的な腐食に強い。このことは裏返せば、エッチングしにくいことになる。このため、生産ラインはシリコンとは全く別の装置が必要で工場は別の建物になる。例えば、InfineonはSiのIGBTやMOSFETを300mmラインで生産しているが、SiCは全く別の建物のラインで生産していることと同様。

これからのSiCの需要の高まりに対して、SiCウェーハを搭載するサセプターを生産している東洋炭素は、香川県と米オレゴン州の工場で、50億円以上を投資して2028年までに生産能力を現在の3倍に高めるという。

政府は生成AIで日本が世界から遅れることのないようにするため、岸田文雄首相は、NvidiaのJensen Huang CEOと面会した。同社は生成AIに必要なGPU(グラフィックプロセッサ)を設計からソフト開発、AIライブラリまで扱う。日本でソフトバンクやさくらインターネットなどのデータセンターをはじめ、NECやNTTなどの企業と連携していくとHuang氏は話したという。生成AIのGPT-3は、英語ベースで英語圏のコンテンツを学習させたものなので、日本でも日本特有の知識を学習させる必要があり、NvidiaのGPUは当面欠かせない。

Nvidiaを追いかけるAMDは、米国時間12月6日に開催されたイベントで、MI300シリーズを発表、クラウドから企業向け、さらにパソコン向けまでAIチップを展開することを述べた(参考資料1)。CES 2023 で開発を発表、6月のComputex Taipeiで新製品として発表したMI300Xアクセラレータは、Microsoft AzureやMeta(旧Facebook)、Dellに使われており、Oracleも計画しているという。AIチップだけではなく、大規模言語モデル(LLM)に対応できるソフトウエアスタックROCm6も発表している。

経産省は、AIチップを開発しているプリファード・ネットワークスなどに対して200億円を支援すると発表した。報じた6日の日本経済新聞によると、2028年まで5年間の研究開発を後押しするという。さらにインターネットイニシアティブ(IIJ)と北陸先端科学技術大学院大学も対象で、半導体支援のための「ポスト5G基金」から拠出する。


8日の日経によると、政府は、与党の税制調査会で半導体などの生産量に応じて税優遇する制度の骨格を示した、と報じた。「各年度の税優遇の上限額を法人税の20%とすることを提案した。対象製品は半導体や電気自動車(EV)など5分野になる見通しで、12月中旬の2024年度の与党税制改正大綱で決定する」と報じている。

政府の半導体への熱はこのところすさまじいが、今年から3年間だけでその次年度以降はピタリと支援は止まる、と見る向きもある。

参考資料
1. "AMD Showcases Growing Momentum for AMD Powered AI Solutions from the Data Center to PCs", AMD (2023/12/06)

(2023/12/11)
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