半導体工場の建設が着々と進み、大学での半導体教育も拡充へ
TSMCの日本進出や、ラピダス社の活動など半導体人材の不足が顕著になっている。米国の産学共同モデルと同様、ラピダスのある北海道では人材の確保を受け各大学が半導体教育に向けて動いている。TSMCの工場のある九州でも大学での半導体教育が盛んだ。熊本には半導体工場に材料を供給する関連企業が続々進出している。
図1 ラピダスの建設現場 新千歳空港から筆者撮影
12月4日の日刊工業新聞は、九州地区での半導体人材不足を指摘する。九州の半導体産業の基盤強化を目指す産学官組織によると、今後10年間で年間1000人規模の関連人材が不足するという。
TSMCの人材募集をLinked-Inでチェックすると、かつては半導体製造工程におけるプロセスエンジニアやメトロロジ、品質管理、データ分析、などが多かったが、最近、特に今日配信されたジョブニュースでは、広報や通訳、秘書、人事などの間接業務の人材を募集している。ただし、製造プロセス関係は、かなり専門知識を要求する分野別の募集に絞られている。たとえば、材料調達部門の品質管理エンジニアやFab23 PID(プロセスインテグレーション)マネージャーなどという職種だ。もちろん、不良解析支援エンジニアや設備電力エンジニア、サービススペシャリストなど職種を限定した専門家の募集は相変わらず多い。
北海道では半導体はおろか、理工系学生の7割が道外に就職している。製造業が手薄で十分な雇用や待遇を提供できる企業が限られるためだ。ラピダスの進出は半導体工場や半導体関連工場などの進出で、理工系学生を道内に留める好機となっている。求められる半導体人材を育てるため、大学は教育体制を急いでいる。
ラピダスの工場を建設している新千歳空港の近くにある公立千歳科学技術大学では、「半導体やデータサイエンスなどに詳しい教員を探している。12月1日の日本経済新聞北海道面によると、2024年度は半導体や人工知能(AI)に精通する教員などを最大4人採用する予定だ」と学長の宮永喜一氏は話す。学内に近く、半導体とAIの研究組織を立ち上げ、企業連携を加速するとしている。AI知識が必要なのは、さまざまなパラメータを使って半導体ウェーハを生産するため、さまざまなデータを解析する能力を求めるため。24年春の入学生が卒業する28年には、ラピダスの工場で最先端半導体が量産されている予定だ。キャリアセンター長の福田浩教授は「地元にいながらにしてグローバルに活躍するチャンスが増す」と期待している。
北海道大学は10月、学内の半導体関連研究を集約し企業との窓口となる「半導体拠点形成推進本部」を新設。旭川工業高等専門学校(高専、北海道旭川市)では「半導体概論」の授業が始まったという。
熊本では、TSMCの工場が完成に近づき、ASMLジャパンが9月に益城町から菊陽町へ移転・拡張した技術支援拠点を開設した、と1日の日経産業新聞が報じた。人員は10人規模から最大60名まで増やす。フェローテックは菊陽町の隣の大津町に半導体製造装置向け部品工場の建設を決め工場棟を2棟160億円かけて建設する。エア・リキードも合志市内で拠点を増強しているという。平田機工も菊池市内で工場棟を1.5倍の1万7000平方メートルに拡張したという。
九州では人手不足が顕著だ。「九州の半導体産業の基盤強化を目指す産学官組織によると、今後10年間で年間1000人規模の関連人材が不足する」(12月4日の日刊工業)として、シリコンウェーハサプライヤのSUMCOと九州工業大学は、包括協力協定を4日に締結する。ここでも半導体シリコンウエハーの研究開発とともにデータサイエンス・AIの人材育成を目指す。また九州大学は9月に台湾の工業技術研究院などと同分野における覚書(MOU)を締結した。
熊本大学では半導体関係の企業へ2020年に65名の就職者を出したが、半導体教育コースがなかったため、教育体制に力を注ぎ、2028年度以降、毎年100名以上の人材を半導体関連企業へ輩出するという目標を掲げている。大学院先端科学研究部附属半導体研究教育センターを今年5月に設立、センター長に元産業技術総合研究所の青柳昌宏氏を任命している。2024年度から工学部半導体デバイス光学家庭や情報融合学環DX半導体コースを開始する予定だ。