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AIチップ、クラウドの生成AIからエッジでの専用的な生成AIへ拡大

AIチップがさまざまな広がりを見せている。クラウドベースの生成AI向けからパソコンやスマートフォンベースの画像向け生成AIチップ、さらにはエッジAI向けチップにも広がってきた。また半導体投資も再び活発になってきた。Micronの広島工場、マレーシアへのIntelとInfineonの投資、産業技術総合研究所の2nmプロセスへの挑戦などが報じられている。

米SIA(半導体工業会)が示した8月の世界半導体販売額は3カ月の移動平均値で前月比1.9%増の440億4000万ドルだった。少しずつ半導体市場は回復してきている。6カ月連続前月比でプラス成長を続けている。


Tensor G3 / Google

図1 Google Tensor G3チップ 出典:オンライン会見から


ゆっくりとした回復スピードだが、生成AIがクラウドだけではなく、エッジにも使えるように広がってきている。Googleが最近発売したスマホ「Pixel 8」および「Pixel 8 Pro」には、AIを利用した画像処理機能が搭載されており、スマホの頭脳となるアプリケーションプロセッサ「Tensor G3」にはTPU(Tensor Processing Unit)(図1)が集積されている。これにより、従来のPixel 6と比べると2倍の機械学習モデルが集積されており、10倍の集積度を持つ。自然言語処理能力も高く、他社のデータセンター並みの能力をスマホレベルで実現しているという。また音声翻訳能力も高く、テキストから数ヵ国語の音声に変換できる。

G3には、ArmベースのCPU、GPU、TPUさらにISP、画像生成DSP、セキュリティ回路、コンテキストハブ回路などが集積され、それらのIPブロックは従来機種よりもアップグレードされているという。特に写真の画像と音声合成、機械学習モデルの能力を高めたとしている。例えば、写真の合成機能ではベストショット機能があり、グループで写真を撮る場合に各人が目をつむっていない顔の写真を合成する。またマジックエディター機能では背景を曇り空から夕焼けのきれいな空へと変換することができる。同様に、周囲のノイズなど消したい音声があればオーディオマジックイレーザー機能で消去する。ズームエンハンス機能では、拡大したい画像をズームインした後に、生成AI機能を使って画素の補完を行い、くっきりした画像に変換する。

また、チャットGPTを開発したOpen AIが独自半導体の開発を検討している、とロイター通信が報じ、10月7日の日本経済新聞がそれを掲載した。チャットGPT(GPT-3モデル)に問い合わせるとNvidiaのGPUを大量に使っていると答えるが、高性能なGPU半導体が不足する恐れがあることがその背景にあるという。ロイターによれば、半導体関連企業の買収や既存のメーカーとの提携など複数の可能性を検討している。ソフトウエアだけでは専用のAIチップは性能面で必ず劣るため、OpenAIも自社開発に踏み出すことは時間の問題だろう。

ルネサスエレクトロニクスは、エッジAIに注力しているが、エッジAIを手掛けるスタートアップのEdgeCortix(本社東京)と戦略的な提携を結び、EdgeCortixの資金調達ラウンドに出資したと発表した。ルネサスはエッジAIソフトウエアのRealityAIをすでに買収しており、エッジAI機能のローエンドからハイエンドまで揃えていく。EdgeCortixは、ルネサスをはじめSBIインベストメントなど5社を引受先とする第三者割当増資により2000万ドル(約30億円)を調達した。同社のAIチップは10W以下で40兆回/秒の演算能力を持つと10月4日の日経が報じている。


マレーシアに再び半導体産業が活発になりそうだ。8日の日経は、Intelがマレーシアのペナン島の工業団地に70億ドルを投資して先端パッケージの工場を建設すると報じた。Infineonもペナン島の対岸に近いクリムにSiCパワー半導体のプロセス工場を建設することが決まっており、マレーシアは再び半導体産業が盛んになる可能性はある。インドやベトナムも半導体産業に力を入れており、東南アジアでの競争が激化しそうだ。

Micronの広島工場の設備投資に1670億円と研究開発に250億円の合計最大1920億ドルを経済産業省が補助することが正式に決まった。広島工場で最先端の1γnmのDRAMチップを生産するが、この工場にEUVを初めて導入する。また研究開発ではHBM(High Bandwidth Memory: DRAMを4枚程度スタックする3Dメモリ)を生成AI向けメモリとして開発する。

産総研でも2nmプロセスレベルのGAA(Gate All Around)トランジスタを試作・開発する。そのための先端半導体センターを新設した。半導体材料やデバイス、プロセスなどの研究者を集めた100人規模の組織になるという。

(2023/10/10)
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