東芝、TOB成立で上場廃止へ、新成長プランに向け体制整える
経営の混乱が続いていた東芝は、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)と国内連合20社超による東芝へのTOB(株式公開買い付け)が成立した、と発表した。東芝は年内にも上場廃止となる見通し。また、SiCやGaN材料を利用したパワー半導体への投資が盛んになってきた。けん引力はもちろん電気自動車(EV)だが、サーバー用電源も見込まれている。
図1 東芝のホームページ
東芝は21日、日本産業パートナーズ(JIP)と国内連合によるTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。株主によるTOBの応募比率は78.65%で、成立に必要な2/3を上回った。TOB成立を受けて島田太郎社長は「新しい株主のもと、新たな未来に向かって大きな一歩を踏み出す」とコメントした。ロームは普通株と優先株を合わせて東芝に3000億円を拠出する。ミネベアミツミも100億円を出資することを決めた、と22日の日刊工業新聞が報じた。
東芝の現状は、2023年3月期(2022年度)の売上額(連結)は前年より247億円増の3兆3617億円だが、営業利益は同484億円減の1105億円。セグメント別では、半導体とHDDを扱うデバイス&ストレージ(D&S)事業が最大の7971億円、次が鉄道や水処理などのインフラ事業が6932億円、発電・送電などのエネルギー事業は6695億円、と続いている。営業利益が最も大きい事業はインフラ事業の450億円で、D&S事業のそれは429億円だった。D&S事業のうち半導体の営業利益は710億円と部門で最大。残念ながらHDDなどが281億円の赤字だったためD&S事業前端の営業利益が429億円にとどまった。
半導体の次に利益の大きかった部門はエネルギー事業の発電システムの318億円である。これら両事業をさらに伸ばしていくことが本筋となる。消費電力の削減、脱炭素を実現するためのパワー半導体を軸に、蓄電池やソーラーシステムなどに力を入れることは必然となろう。パワー半導体はEVだけではなく、再生可能エネルギーや電力用蓄電池から架線に送電するため、50Hz/60Hzのきれいなサイン波形を作り出すためにパワー半導体は欠かせない。さらに東芝のビル事業部とも協力して、ビルでの再生可能エネルギーから100V/200Vの商用電力に変換するためにもパワー半導体は必要。さらにパワー半導体を求めるのは東芝のエネルギー事業、インフラ事業、ビル事業だけではない。リテールやプリンテインング事業やデジタル事業でも電源にパワー半導体が必須。
ただし、パワー半導体だけでは電力システムを作れない。パワー半導体を駆動するドライバICや高電圧・低電圧分離用の絶縁トランスやフォトカプラなどのアイソレーションチップ、さらにドライバICに指令を出すマイコンや、マイコンに情報を送るセンサやアナログICも揃え、ダッシュボードなどのソフトウエアも含めたソリューションとして提供すると、強みは一段と増すだろう。そして世界にも販売するだけではなく世界企業と協力して設計するような展開ができれば成長は間違いない。その点、新生ルネサスエレクトロニクスは一つの見本となりうるだろう。
東芝だけではなく、パワー半導体への投資が活発になっている。EV向けがパワー半導体をけん引しているが、さらにデータセンター向けの電源の効率化や、再エネや蓄電池向けのパワーコンディショナーにもパワー半導体は欠かせない。ルネサスは2025年にSiCパワー半導体製品を市場に投入するが、SiC結晶ウェーハを入手するため、Wolfspeedに20億ドルの預託金を提供する契約を結んだ。今後10年間に渡りSiCウェーハを確保する。WolfspeedはまずSiCの6インチウェーハを提供し、のちに8インチウェーハも提供する。SiC製品は高崎工場で生産する。シリコンの300mmウェーハ甲府工場はIBGTを生産する。
SiCの先駆者であるロームは、SiC全体に5100億円を投資する、と20日の日本経済新聞が報じた。24年末に宮崎県に新工場を稼働させ、28年3月期にSiCパワー半導体の売上額を23年3月期比9倍となる2700億円を目指す。ロームはSiCだけではなくGaNも手掛け始め、二つの化合物半導体で電力システムの効率を上げていく作戦だ。三菱電機は約1000億円を投じて26年に熊本県菊池市に新工場を設けるなどし、SiCの生産能力を27年3月期までの4年間で5倍に上げる。
SiC半導体トップのSTMicroelectronicsは、TeslaのEV「Model 3」にSiCが搭載されたためトップを行くが、さらに現代自動車も採用を決めた。2位のInfineon Technologiesも必死に追いかけており、世界中の自動車メーカーとデザインインに入っている。SiC部門の売り上げは倍々ゲームのようだと日本法人社長の川崎郁也氏は語っている。