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半導体や蓄電池など成長産業への税制優遇が可能に

ようやく半導体や蓄電池などの成長産業メーカーへの税制優遇が達成できそうになってきた。これまで世界では工場誘致での税制優遇策を講じてきていたが、日本では税制優遇がなく他国へ流れたケースが多かった。半導体投資にも弾みがつきそうだ。蓄電池も電気自動車だけではなく再生可能エネルギーにも有効で、日本での取り組みを加速させる。

図 経済産業省総合庁舎本館

図1 経済産業省 セミコンポータルが撮影


税制優遇については8月31日の日本経済新聞が報じているが、2024年度に税制改正案が経済安全保障の強化や脱炭素を目的とした長期支援策とする提案だ。経済産業省は半導体や蓄電池を念頭に生産量に比例して法人税を優遇する「戦略物資生産基盤税制」の創設を要望する見通しだという。この新税制案では、設備の導入期だけでなく、生産している期間にかかる費用も含めて差し引く仕組みを検討する。財務省は、法案の期限を3年としているが、これを6年間に延ばす案を経産省が用意しているという。財務省とのせめぎ合いになりそうだ。

半導体産業への投資ニュースとしては、東京エレクトロン(TEL)が研究開発棟を増設、研究開発に力を注ぐ。24年3月期には過去最大の2000億円を投じる計画だ。山梨県韮崎市にある子会社のTELテクノロジーソリューションズが7月21日に新開発等の竣工式を行い、開発エリアの延べ床面積が従来の1.6倍に広がった。韮崎工場での新棟建設は25年ぶりだという。ここでは成膜装置を主に開発する。宮城県大和町では、21年9月に竣工した宮城技術革新センターがエッチング装置を開発する。4階建ての同センターには「共創ラボ」と呼ぶ開発のための部屋や、社員や顧客が装置の使い方を学ぶ「トレーニングセンター」がある。

材料分野でも、商社の双日がフッ素の国内サプライチェーンの構築を急ぐ。双日は、メキシコの化学メーカー、オルビアのグループ会社メキシケムフローと共同でフッ素化合物の原料となるフッ酸を生産する、と8月30日の日経が報じた。メキシコ産の蛍石(CaF2)を輸入し2026年度から化合物を生産する。蛍石は、これまで中国から輸入していた。中国が蛍石の7割を占め、日本はフッ酸需要の7〜8割を輸入に頼っている。中国1本ではなく、メキシコからの輸入によりフッ酸の安定供給につながる。フッ素は、半導体のエッチング材料だけではなく、EVバッテリのリチウムイオン電池の正極材としてフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂や、電解液として六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)などとして使われている。

2nmプロセスのファウンドリを目指すラピダスが半導体技術者募集に力を入れており、7月末現在で約100名になった。工場立ち上げ時までに10倍の1000人に増やす予定である。8月1日に行った約30名の入社式では、50歳代で半導体や電機大手などで長年腕を磨いたベテランが多いという。ただ、20〜30代の若手の人材が不足しており、熟練世代の知見や経験を若手に伝えることを急ぐ。

半導体の国内工場では決して日本人ばかりではない。エルピーダメモリを買収したMicron Technologyの東広島工場では、東南アジアや欧米などから人材が集まっており、まるで外国の工場のような状況だ。ドイツInfineon Technologiesのミュンヘン本社を訪問した時もドイツ人以外の外国人が社員の約1/3を占めているという話を聞いた。もちろんシリコンバレーの半導体企業には約半分の外国人がいる。ラピダスも人材を外国から求めなければ不足することは免れない。

戦略物資の一つである蓄電池への生産にも税制優遇措置が適用されそうだ。電気自動車(EV)に欠かせない蓄電池など、生産を過度に中国に依存する製品の供給網(サプライチェーン)を立て直す狙いがある。米国のインフレ抑制法(IRA)を参考に、蓄電池の生産量や太陽光発電などの発電量に応じて法人税の支払いを減らす仕組みを導入している。また、国土交通省は、経産省とともに脱炭素につながる設備投資を支援するカーボンニュートラル投資促進税制の拡充を求める。設備投資額の最大10%を法人税から税額控除するという。

蓄電池をEV以外の用途にも広げる動きがある。日産自動車のEV「リーフ」の使用済みリチウムイオン電池を再利用し持ち運び安い小型電源器をケンウッドが発売する、と9月1日の日経が報じた。企業や自治体向けに車内やアウトドア、災害時などの利用需要を取り込む。EVでは電源電圧が20%も下がってしまえば走行距離がその分減るため、自動車利用者は許容できないが、小型電源であれば十分使える上に、安く入手できるというメリットがある。

蓄電池は再生可能エネルギーを安定化させるや役割も果たす。ソーラーパネルは日中しか発電しないが、夜間に蓄電池を利用すれば電力の平準化が図れる。すでに大規模なソーラー発電所では蓄電池とセットにした発電システムをTeslaなどが設置している。

(2023/09/04)
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