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TSMCの23年2Q決算から見える半導体不況の現状と今後

2023年第2四半期(2Q)におけるTSMCの業績が発表され、2023年の売上額見通しが約10%減と発表された。TSMCの儲け頭は、5nm/7nmプロセスノードを利用するHPC(高性能コンピューティング)とスマートフォン向けのプロセッサだが、スマホ向けが大きく落ちている。また車載向けはこれまで最高の8%にもなっている。

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図1 TSMCの2023年第2四半期の売上額の応用別比率 出典:TSMC


スマホ向けは半導体不足が始まったばかりの20年3QではTSMC全体の売上額の46%を占め、HPCが37%に留まっていた。しかし23年2Qではスマホは33%に減少し、代わってHPCが44%を占めるようになった。車載向けは20年3Qでは全社売り上げの2%しかなかったが、今や8%にも達している。

TSMCの決算が7月20日に発表され、21日には日本経済新聞に掲載された。ほかのメディアも、例えばBloombergはTSMC株価が5カ月ぶりの大幅下落と報じた。TSMC決算報道によって、TSMCに製品を納める半導体製造装置メーカーや、TSMCに製造を依頼しているファブレス半導体メーカーの株価が軒並み下がった。

TSMCの発表では、2Qの売上額は、前年同期比13.7%減で、前期比6.2%減の156.8億ドルであった。粗利益率は54.1%で、1Q時点での予測52%~54%の範囲から上振れしている。また営業利益率も42.0%で1Q時点での予測範囲39.5%〜41.5%を超えている。売上額は2022年3Qの202.3億ドルをピークに、22年4Qに199.3億ドル、23年1Qに167.2億ドル、そして今回の156.8億ドルと下がって来ている。ここが底かもしれない。

ただ、株価の連動はいつもながらその時々の発表に連鎖するが、第2四半期での落ち込みは第1四半期の時にTSMCはすでに発表していた。全く予想通りだった。第1四半期でのTSMCの売上額は167.2億米ドルで、前年同期比4.8%減、前四半期比では16.1%減だったが、第2四半期の売上額は152億ドル〜160億ドルの範囲と予想していた。実際には今回の第2四半期実績は156.8億ドルであり、予想範囲内に収まっていた。

問題は、今後どうなるか、である。幸いTSMCはいつも次の四半期を予測しており、ほとんど、それに近い実績を残してきた。ファウンドリの売り上げは、デザインインが始まりテープアウトの時点で、ファブレスやIDMなどの顧客がある程度の需要を見込んで発注するため、製造仕掛を含め、ある程度正確に次の四半期の売上額を見込むことができる。しかし、メモリは大量発注であり、しかもコモディティ的でもあるためハイリスクハイリターン製品で予測は難しい。

その点、ある程度固い見通しができるファウンドリ事業の決算と見通しは、将来を占う指標にはなりうる。TSMCの3Qでの見通しは、売上額が167億ドル〜175億ドル、粗利益率が51.5〜53.5%、営業利益率が38〜40%となっている。これらの数字をどう見るか。特に成長を表す指標は売上額であるため、売上額を見ると、2Qでの156.8億ドルよりも10〜18億ドル高くなっている。

これらの数字から、もう底を脱出した、と見えないことはない。しかし、3Qは毎年クリスマス商戦が近づく四半期であり、半導体ユーザー(IT機器メーカーやITサービス業者)が発注する季節でもあり、例年2Qよりも売り上げが増える傾向にある。このため3Qの方が2Qよりも増えることは例年の季節要因である。逆に3Qの方が減っていると、完全な半導体不況といえるが、今年の見通しは少なくともこれ以上は悪くならないことを示している。

ただ、前年との比較は重要な要素である。TSMCの22年3Qの売上額が202.3億ドルであるから、23年3Qの見通しである167億ドル〜175億ドルは、前年同期比-17〜-13%程度になると言える。

今回の半導体不況をよく見ると、中国での半導体売上額が前年同期比でみると非常に悪く、中国市場の回復が遅れていることが最大の原因のようだ。これは世界全体の毎月(3カ月の移動平均)の前年同月比と中国におけるそれを比較するとわかる。今年の1月から5月までの5カ月間での前年同月比では世界全体が1月-18.5%、2月-20.7%、3月-21.3%、4月-21.6%、5月-21.1%だったのに対して、中国向け半導体出荷額はそれぞれ-31.6%、-34.2%、-34.1%、-31.4%、-29.5%となっており、半導体不況の足を引っ張っているのは中国であるといえる。中国以外の地域はそれほど悪くない。例えば最新の5月では、米国+5.2%、欧州+4.5%、日本+1.2%とむしろプラス成長しており、アジア太平洋が-13.9%に留まっている。つまり、中国以外の売り上げを稼ぐことが事業回復の早道だといえそうだ。

(2023/07/24)
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