パワー半導体市場が一般産業用から自動車用へと拡大するにつれ、SiCパワーMOSFET市場も拡大している。それに合わせて新工場の設立や8インチ化の開発が進んでいる。車載市場もこれまでのEV（電気自動車）化からインホィールモーター（IWM）や、ステアリング-バイ-ワイヤー（Steering by Wire）などへ拡大、SiCやGaNの市場は拡大する勢いだ。

より高耐圧、より大電力、より高効率により、SiCパワーMOSFET市場拡大に向けたニュースが相次いでいる。ロームは、出光興産の100%子会社であるソーラーフロンティアの旧国富工場の資産を取得することで合意に達したと発表した。敷地面積40万平方メートル、建物延べ床面積23万平方メートルとなっており、取得時期は2023年10月を予定している。元太陽電池の製造工場であったが、これをSICパワー半導体の生産拡大に使う。

ロームはすでに宮崎市と福岡県筑後市に6インチのSiCラインを持っているが、今回の国富の工場では8インチのSiC結晶ブールを生産する。7月13日の日本経済新聞によると、ロームは27年度までの7年間にSiC事業全体で5100億円を投じる方針で、22年度に約300億円だったSiC製パワー半導体の売上高は、27年度に2700億円を見込む。

14日の日経地方版では、デンソーがSiCパワー半導体を使ったインバータを開発、電力効率を10%改善できると報じている。SiCウェーハの8インチ生産ラインはSTMicroelectronicsが先行しているとみられるが、デンソーも8インチラインの構築に取り組むとしている。

図1　DeepDrive社の新型デュアルローターを持つモーター　出典：DeepDrive

SiCパワー半導体に新市場ができた。モーターやインバータを車輪の中に導入するインホィールモーター（In-Wheel Motor）方式だ。4輪を独立に制御できるため、縦列駐車が簡単にできる。これまでは効率がさほど高くなく、従来のクルマとの差別化要因が少なかった。新しいモーターを開発してIWMを実用化しようとしているのは、21年に誕生したドイツのスタートアップDeepDrive社だ（14日の日経産業新聞）。BMWやContinentalのベンチャーキャピタルなどから出資を仰ぎ、総額1500万ユーロ（24億円）を調達した。

DeepDrive社のモーターはユニークだ。従来のモーターは回転するローター部と周囲の固定部となるステータ部で構成されるが、この新会社はデュアルローターを使い、互いに逆回転することで、モーターの回転のパワーが2倍になりトルクを増大する。その結果、磁性材料は半分、鉄の使用量は80%削減され、レアアースの使用はゼロ、トルクNm当たりのコストは30%安いという（参考資料1）。SiCパワーMOSFETをインバータに使うことで小型化を図ることができる。2026年の量産に向けて協議していると日経産業は報じている。

必ずしもSiCを使う訳ではないが、ハンドルと車軸とが離れていて、車輪の向きを小型モーターで変えるステアリング-バイ-ワイヤーもパワー半導体の市場となりうる。14日の日経産業は、ドイツのZFが2023年内にその量産をはじめ、日本のジェイテクトも間近に控える、と報じた。ステアリング-バイ-ワイヤーは、ハンドルの回転を検出するECUと、タイヤの操舵角を変えるモーターを駆動するECUとの間を電気信号配線で結び、車軸がいらない。自動運転になれば、ハンドルそのものが不要になるため、いまからステアリング-バイ-ワイヤー技術が浮上してくるという訳だ。タイヤの効率を優先するならここでもSiCが使われる可能性は残されている。

SiCだけではなくGaNでもこれまでの常識を超えた高耐圧、大電力のパワー半導体になりうることを、セミコンポータルですでに報じたが（参考資料2）、14日の日経産業でも栃木のパウデック社の紹介記事が掲載された。GaNはSiCよりも高速、低オン抵抗という特長があるが、これまでは耐圧がせいぜい650V止まりだったが、パウデック社が従来の横型MOSFETで1200Vが可能なことを示し、SiCの次にクルマや再エネなど電力グリッドに使われる可能性を示している。

車載市場はこれからも拡大していくため、韓国の総合電機であるLG電子が車載部品事業の売上高を2030年に22年比で2倍超となる20兆ウォン（約2兆円）に引き上げる、と13日の日経が報じた。同社は2030年の全社売上額を100兆ウォンと目標に掲げており、車載部品事業はその20%に相当する。

参考資料
1. DeepDriveホームページ
2. 「GaNの常識を覆す1200Vの技術でEV市場を狙うパワー半導体ベンチャー」、セミコンポータル (2023/02/10)