生成AIがデータセンター需要を新たに生み出す動きが見えた
生成AIへの応用を見込んだ半導体需要が注目されている。生成AIにはNvidiaのGPU(グラフィックスプロセッサ)が数千個使われていると言われ、生成AIがデータセンター需要を新たにけん引しそうだ。Nvidiaの決算(2023年2〜4月期)発表で前年同期比13%減だったのにもかかわらず、株価が上昇し続けた。ソニーの熊本での新用地取得をはじめ早くも不況脱出後の準備が始まった。
5月26日の日本経済新聞は、「(5月24日後の)決算発表後は時間外取引で株価はさらに24日終値から約28%上昇した」と報じ、時価総額はAppleやAlphabetなどITサービス業者に続く世界6位となり、米Meta(旧Facebook)やTeslaを超える規模になったという。時価総額は株価×発行株式総数で表されるため、株価の値上がり=時価総額の値上がりとなる。
Nvidiaの決算では前四半期比では19%プラス成長だったことが、株価を押し上げた。その発表を受け、GPUなどのSoC向けテスターメーカーである日本のアドバンテストの株価が25日の東京市場で前日比16%高の1万6340円になったと26日の日経は伝えている。
図1 Nvidia CEOのJensen Huang氏
同社CEOのJensen Huang氏(図1)は、「コンピュータ産業は、アクセラレーティングコンピュータ技術と生成AIという二つ大きな変化が同時進行で進んでいる」と表現した。これらの新トレンドではコンピュータにはGPUが欠かせないが、ここに使われる半導体はそれだけではない。ルネサスエレクトロニクスの執行役員常務兼エンベデッドプロセッシング・デジタルパワー&シグナルチェーンソリューショングループのジェネラルマネージャー、Sailesh Chittipeddi氏は、「生成AIは(ルネサスにとって)チャンスだ」と同社のCapital Market Dayで述べ、AIアクセラレータカードにクロック生成ICやクロックバッファ、レジスタードクロックドライバ、PMICなどのIC群でクラウドをサポートしていく、と述べている。クラウド(物理的にはデータセンター)では現在12V系の電源が主流だが、24年には48V系電源に変わり始めると見ている。
アクセラレーティングコンピュータ技術では日本の「富岳」も負けてはいない。スーパーコンピュータの世界ランキング「Top500」では、NvidiaのGPUを駆使した米Oak Ridge National LaboratoryとHPEのスパコン「Frontier」に次ぎ、「富岳」は2年連続2位だったが、別の性能指標、大規模グラフ解析の性能ランキング「Graph500」等では1位をキープしている。また、生成AIでも富岳の利用が始まっており、東京工業大学や富士通が生成AIのもととなる大規模言語モデルの開発に富岳を利用する。英語の情報を基本とするChatGPTでは、2021年9月までの情報しか学習していないため、日本独自の細かい情報は日本で学習させる必要がある。東工大や富士通の大規模言語モデルを使えば、もっと精度の高いChatGPTとなる。
ソニーセミコンダクタソリューションズが、CMOSイメージセンサ用の新工場用地を取得する方針を発表した、と26日の日経が伝えた。同社の清水照士社長が「不透明な状況下でも将来の準備を進める」と語り、工場用地の取得交渉に入ったことを明らかにした。スマートフォン向けがほぼ飽和しているため、車載用や産業用コンピュータビジョン向けであろう。今後のクルマには1台当たり8~10台程度搭載されるためだ。熊本県合志市に約27万平方メートルの土地を取得するという。
製造装置メーカーは、韓国に拠点を設けたり、今ある拠点を拡充したりする。韓国にはSamsungとSK Hynixが巨大な工場を持っているためだ。Applied Materialsはソウル近郊に研究開発拠点を新設、ASMLもサポート拠点を建設する、と24日の日経が報じた。東京エレクトロンもSamsungの半導体の研究開発拠点の近くでクリーンルームを増設する。アルバックも24年に韓国初の技術開発拠点を開設する予定で、KOKUSAI ELECTRONICや日立ハイテクもクリーンルームを増強するという。