2Qに今回の底が来るが通年では1桁%の半ば減で留まるTSMC
先週4月20日に台湾TSMCの2023年第1四半期(1Q:1〜3月期)の業績が発表され、翌21日の日本経済新聞は、半導体総崩れ、という見出しを付け報じた。TSMCの四半期決算の売上額は、前年同期比3.6%増の5086億台湾元となったが、台湾元安米ドル高の影響で米ドルでは4.8%減の167.2億ドルとなった(1米ドル=30.42元)。
本業の利益を示す営業利益率は売上額に対して45.5%と1年前をほぼ同じくらいで好調である。ただし、無駄なコストをできる限りは省くことで利益を確保したとしている。純利益率も好調で40.7%確保している。
例年1Qは、クリスマスシーズンで稼ぐ前年の4Qよりも業績が落ちるが、昨年の1Qは半導体不足の影響が続き一昨年の4Qを上回っていた。今年は例年の10%弱の落ち込みよりも大きく、台湾元ベースで前期比18.7%減、ドルベースで同16.1%減と良くない。
図1 TSMCのプロセス別売上比率 出典:TSMC
儲け頭の5nm/7nmプロセスは売上額の51%を占めている。前年同期比ではプラスだが、前期比ではマイナスである。先端品と定義されている16nm以下の売上額は全体の64%と約2/3を占める(図1)。
前期比が台湾元ベースで大きなマイナスだが、車載向けだけが前期比5%増のプラス成長である(図2)。最大のユーザーは、44%を占めるデータセンターやスーパーコンピュータ向けのHPC(High Performance Computing)であり、次が34%のスマートフォンの分野である。ただし、これらの市場向けが全て、7nmや5nmといった微細プロセスではない。データセンター向けでは電源ICやセンサ、アナログICなど緩いプロセスも含まれている。
図2 2023年1QにおけるTSMCの用途別売上比率 出典:TSMC
1Qの落ち込みに対して、CEOのC. C. Wei氏はユーザーの在庫レベルが前期よりも上がったためであり、2Qも在庫調整は続くと見る。そこで、2Qの売上額は152億ドル〜160億ドルの範囲(1米ドル=30.4台湾元)として営業利益率は39.5%〜41.5%と見込んでいる。Wei氏はTSMCのビジネスはほかのファウンドリや非メモリメーカーの業績と比べると良く、米ドルベースで2023年前半の売上額は10%減だが、2023年通年では1桁%の中ほど(つまり5〜6%減)に留まるだろうとしている。
2023年の設備投資額は、短期的な不透明さがあるため昨年よりは少ないものの、320億ドル〜360億ドルの規模になる見込みだとする。
微細なプロセスで先頭を行くTSMCのN3およびN3Eプロセスの見通しについても語っている。N3プロセスに対するユーザーの需要は生産能力以上に強いため、2023年いっぱいはフル稼働となるだろうという。ただし、売り上げとして計上されるのは3Qからになる。N3の改良版であるN3Eプロセスはユーザーの品質認定をパスし、23年後半から量産に移行する。N3/N3Eプロセスは従来のN5プロセスの2年目の時よりもテープアウト数は2倍以上もあるとしている。
ラピダスと競合する可能性のあるN2プロセスに関しては、順調に進んでおり、25年には量産を開始する予定だという。感触としてN2プロセスで使うナノシートトランジスタは電力効率が良いと述べている。
この決算発表の場においてWei氏はグローバルの生産を拡大するという方針は変わらないと述べた。アリゾナ州のN4プロセスの第1工場と日本のスペシャルティ製品ファブは24年後半に生産開始する予定。また欧州のドレスデンに新工場を建設するという噂があるが、Wei氏は場所を特定しなかった。車載向けの製品を作る工場として、現在ユーザーと話し合いに入っているところだという。中国の28nmプロセスの南京工場も拡大する方針だ。人員に対しても、アリゾナ州には900名、日本でも370名を採用したという。