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ゴードン・ムーア氏の死去は新時代の象徴だろうか

ムーアの法則で有名なゴードン・ムーア氏が亡くなられた。94歳だった。ムーアの法則はICに集積されるトランジスタ数は年率2倍で増加するという経済則。市販のIC製品に集積されるトランジスタ数を表した図を掲載した論文が1965年、IEEE Spectrum誌と米McGraw-Hill発行のElectronics誌に発表された。以来、ムーアの法則はまるでテクノロジーの進展を表す言葉として使われるようになった。

Andrew Grove, Robert Noyce and Gordon Moore / Intel Corp.

図1 Intelの創業者であるムーア氏(右)とロバート・ノイス氏(中央)。左はIntel社員第1号のアンドリュー・グローブ氏 3人とも故人となった 出典:Intel Corp.


ゴードン・ムーア(Gordon Moore)氏は、ノイス氏と共にIntel社を1968年に創業した。最初の社長はノイス氏で、次の社長がムーア氏だった。Intel社は、MOSトランジスタによる集積回路(IC)を目指すために設立された。ノイス氏は、現在のICの基礎となるプレーナプロセスによる集積回路を最初に発明した。Texas Instruments社のジャック・キルビー氏がGeトランジスタを外部配線でつなぐ、ハイブリッドICを発明したのに対して、ノイス氏はSi(シリコン)のプレーナプロセスをベースにしたモノリシックICを発明した。2000年にはキルビー氏がICの発明でノーベル賞を受賞したが、残念ながらノイス氏は心臓病で1990年6月に亡くなっていたため受賞できなかった。

ムーア氏は1975年に社長になった後、1979年に会長兼CEOとなり、1987年までCEOを務めた。ムーアの法則は、テクノロジーの指導原理になった。Intelはムーアの法則に沿って集積度を高め、マイクロプロセッサの高性能化、高機能化を実現し続けてきた。

ムーアの法則は終わるのだろうか、という議論は最近見られなくなった。3次元化やSiP(System in Package)化によってIC製品としてみると、従来のパッケージに入ったSoCチップと同じように見えるからだ。すなわち、IC製品としてみると、集積されているトランジスタ数は従来通り、増加し続けているのである。

Intel社では、1971年にフェデリコ・ファジン氏が最初のマイクロプロセッサ4004を開発し、テッド・ホフ氏がマイクロプロセッサのコンセプトを打ち出した。この発明は現在のCPUやSoC、マイクロコントローラ、組み込みプロセッサなどにつながった。世の中を標準ロジックやハードワイヤード論理から、CPUによるソフトウエアで差別化できる時代へと導いた。最近よく言われるSoftware-Defined XXは、まさにCPUとソフトウエアによるシステムの実現である。CPUが社会のあらゆる電子製品に入り込むという貢献によってデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)の原動力となった。Intel社の貢献は極めて大きいと言える。

ただ、別の視点で見ると、ムーア氏の死去により新しい時代を迎えた、ともいえる。それは、ショックレー研究所を飛び出した「裏切りの8人」の最後の8人目がムーア氏だったからだ。他の7人はすでに亡くなっている。

トランジスタを発明しノーベル賞を受賞したウィリアム・ショックレー氏は、2022年12月23日の服部毅氏のブログ(参考資料1)にあるように、かなりの変人だった。優秀な人間だけが生き残れるように精子銀行を提案するなど人種差別主義者であり、マネージャーとしてもふさわしくなかったようだ。このため、半導体トランジスタを開発していた8名が一斉に辞表を提出しショックレー研究所を退社し、ノイス氏とムーア氏が中心となってFairchild Semiconductorを設立した。

「裏切りの8人」はショックレー氏が述べた言葉だが、生まれた順に以下の8名である;
(https://www.linkedin.com/feed/update/urn:li:activity:7045345980950474752/)

・Eugene Kleiner 1923-2003
・Victor Grinich 1924-2000
・Jean Hoerni 1924-1997
・Julius Blank 1925-2011
・C. Sheldon Roberts 1926-2014
・Robert Noyce 1927-1990
・Jay Last 1929-2021
・Gordon Moore 1929-2023

最も年長のユージン・クライナー氏は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルで有名なKleiner Perkins社の創業者の一人である。

Fairchild時代に彼らは重要な仕事をした。ジャン・ホーニ氏はプレーナプロセスを発明し、ノイス氏は集積回路を発明した。そしてムーア氏がムーアの法則を提唱した。また、Fairchildこそ、新たなスタートアップやVCなどのエコシステムが充実した「シリコンバレー」を生み出した最初の企業でもある。

「裏切りの8人」の最後のムーア氏がなくなったことで、モノリシックIC技術の一つの時代が終わり、3次元化技術の新しい時代に入ったと言えるのではないだろうか。

参考資料
1. 服部毅、「トランジスタ発明秘話:75年前のクリスマスイブに・・・・」、セミコンポータル (2022/12/23)

(2023/03/27)
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