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過剰在庫が続く一方で、次の成長に向けた投資も活発に

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半導体が在庫調整と民生機器の需要低迷で、過剰になって半年が経つものの、さほどの深刻さはなさそうだ。むしろ次の成長への準備を始める企業が情報インフラや医療機器などの産業向けに開発や性能能力向上に努めている。在庫過剰な半導体の状況と、今後の開発と生産能力向上の話題を取り上げる。

1月30日の日経産業新聞は、日本半導体商社協会会長の大西利樹氏とのインタビュー記事を掲載、現在の半導体流通状況について整理している。大西氏は、「22年前半までは品薄感が顕著で、客は24年分まで商社に発注してきていた。22年後半には在庫が余りはじめ、今では『納期を遅らせてほしい』との要求が増えてきている」と語っている。足元の在庫が過剰なうえに、新規需要がないからだというコメントは、民生機器に関してはこれまでの認識と共通している。


TSMCの全売上と車載向け売上の推移 / TSMC決算報告からセミコンポータルがグラフ化

図1 TSMCは車載向け半導体も伸ばしている 出典:同社決算報告からセミコンポータルがグラフ化


一方で、産業向けや自動車向けのアナログICがいまだに不足しているという認識も同時にある。特に電源用IC(PMIC)は専用品であるのにもかかわらず、電源という価値を認めてもらえないユーザーも多いため、半導体メーカーやファウンドリの優先順位が低いからだ。「ただ自動車向けの半導体の製造能力も一気に増強しており、不足感も徐々に解消していくだろう」と大西氏は述べている。実際それを裏付けているのがTSMCの自動車向けの売上額比率だ。TSMCは2021年第1四半期に約5.2億ドルだった車載向け売上額を増産により、2022年第3四半期に2倍の10.1億ドルに倍増させている(図1)。

30日の日本経済新聞には、ウェーハを「切る、削る、磨く」、という分野に特化するディスコの関家一馬社長とのインタビュー記事を掲載している。その中で「(22年中ごろまでの半導体不足により)、業界あげて一斉に増産投資に突き進んだが、ある時点で供給が需要を超過した。ブレーキを踏むタイミングは神様しか分からない。過去に何度も経験した過剰設備の局面が再来した」と関家社長は述べている。

それでも半導体不況の底はこれまでの経験からそれほど続かない。最も顕著に山・谷を経験した2000年のITバブルでさえ、2001年に半導体販売額が大きく落ちたが、2002年、3年、4年と少しずつ回復してきた。関家社長も「低調が1年以上続いた例は少なく、今回も年内には需給のバランスが回復し、2024年からは再び成長軌道に戻るのではないか」と見ている。

また、低調な分野は民生機器だけであり、産業向けと自動車向けは需要が続いている。産業向けでは衛星を使ったサービスが始まった。Microsoftは、クラウドで利用するプラットフォームAzureを人工衛星とも通信させ、地球観測データの解析やソフト開発を行うための「Azure Orbital Space SDK」サービスを始めた、と27日の日経が報じた。Azureを利用することで、例えば人工衛星で使われる専用ソフトの更新が簡単になり、その頻度が上がるというメリットがある。通信業者は宇宙衛星を使うだけではなく、成層圏での通信飛行体のHAPSの活用も始まっており、地上との通信網を広げるという意味で、HAPSと静止衛星とのやり取りを通じて、セルラーネットワークがカバーされていない地域や山間部での通信サービスもカバーする。

25日の日経産業新聞は、浜松ホトニクスの丸野正社長とのインタビュー記事を掲載している。同社は光センサやイメージセンサの需要に応えるため、2025年9月期までの3年間で1000億円程度を投じて生産能力を倍増させる。同社は半導体製造装置や検査装置向けのCMOSイメージセンサを伸ばし、医療機器や非破壊検査機器でも業績を伸ばしたという。
「医療機器でコンピューター断層撮影装置(CT)向けフォトダイオードは新型コロナウイルスでの肺炎検査用途の受注が一段落すると思った。だが大手メーカーが次世代CTの設計や生産にとりかかったことで、予期せず伸びた」と述べている。さらに「非破壊検査ではEVのリチウムイオン電池向けの需要が伸び、中国大手向けにマイクロフォーカスX線源を受注できた」という。同社はいまだに光センサ半導体の供給が追い付かない状況であるため、1000億円近い投資を決断した。

(2023/01/30)

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